奈良は今どうなっておるのか
It's 蘇 good!に鹿もたじろぎつつ、観光客をお迎え@近鉄奈良駅 |
奈良に移住することになりました。
連載の途中ですが、先日ちきりんさんがVoicyで奈良の中心部についての発信をしておられまので、この記事を連載の間に挟むことにしました。
私が実際に奈良に来て感じたことや以前奈良に住んでいた時との比較をしながら、「奈良中心部の現在」をお伝えしようと思います。
2024/5/15 #865 スタバに憧れるのはやめましょう!
https://voicy.jp/channel/1295/780246
「奈良、滋賀、三重の山奥をドライブして震えた過疎の現実と、インバウンドでに賑わう中心部で見たスタバへの憧れ。こんなに豊かな食と文化のある国なのに、いつまでスタバに憧れてるの?」
こちらの配信は一定期間が経過すると有料となります。(5/21現在は無料で聞くことができます)
10数年前と比較して激変した奈良。三条通は「オールインバウンド」状態
今年の夏、10数年ぶりに奈良を訪れました。
特にTVなどのメディアでは取り上げられていないため、私は知りませんでしたが、奈良の中心部の様子は10数年前にくらべ大きく変化していました。
ちきりんさんもおっしゃっていますが、海外からの旅行者で大にぎわいなのです。
(これまでは修学旅行の時期以外はまばらに海外のバックパッカーがいる程度でした)
2010年前後の少しさびれた寂しい奈良を脳内に描いたまま、なんの期待も持たずに訪れた、晩夏の奈良。
京都からJRみやこ路快速(※1)に乗り込むと、まず、異変が……。
車内に日本人(らしきひと)が私しかいないようなのです。
そして、JR奈良駅に到着。
人口密度の高さにぎょっとしました。
そして、JR奈良駅前から春日大社方面へと続く、観光のメインストリート「三条通」を歩いたところ、大量のひととすれ違うのに日本人(らしきひと)は私のみ。
近鉄奈良駅から延びる「もちいどの商店街」のアーケードから押し出されてくるひとも、海外の方ばかり。
店員さん以外、ほんっとうに、インバウンドの旅行客しかいませんでした。
※2024年5月現在は、修学旅行生も増えました。
10数年前からは比較にならないほどの奈良のにぎわいに驚かされただけではなく、インバウンド率の高さにびっくりしました。
写真がなくて状況が伝わらず、残念ですが。
(観光客の方のお顔が映ってしまうため撮影は難しく、諦めました)
街中、求人ラッシュ
これも、TVやネットでピックアップさほどされていないからほとんどのひとはご存じないと思いますが、個人経営のカフェや飲食店が10数年前と比較して、7、8倍くらい増加しました。
あのころは、町家を改修したカフェなんて2,3軒しかなかったのに……。
しかもほとんどのお店が人手不足で、(外国語で接客できる)アルバイト募集の張り紙が。
あの、閑散としていたもちいどの商店街は、平日も海外からのお客さんだらけで、お昼の時間帯など身動きもとれないほど混雑。
これに、修学旅行生が加わったら、大変なことになるのではないか、と感じました。
ビブレ閉店で、あのとき「未来はない」と思った
この奈良の異常なインバウンドのにぎわいは、写真なしではなかなか伝わらないかと思いますが、10数年前には全く想像がつきませんでした。
今の奈良の状況は、そのころの奈良住民にとって想定外の未来だったと思います。
私は以前奈良に住んでいたことがあります。
そのころ、奈良の中心部にはビブレ(ファッションビル)がありました。
奈良市中心部にはデパートがないため(訂正:近鉄大和西大寺駅前にイオンと併設する形で近鉄デパートがある)、街の商業施設といえばビブレのみ。
これがなくなるときいたとき(※2)、街の象徴がなくなってしまうような寂しさとともに、奈良はこれから衰退の一途をたどるのだな、と奈良の未来に全く希望を持てなくなったことを覚えています。
奈良にはもともと京都のような派手さやにぎわいはありません。
ですが、中心部に奈良女子大や奈良教育大など、大学がいくつかあります。
ビブレがあることで街の中心地に学生が集まっていたように思います。
ビブレがなくなったあと、奈良はどうするのか。
観光客を増やし、観光業で盛り返す努力をするのか。
リタイアしたおじいさんしか歩いていない、平日のもちいどの商店街をひとり歩きながら、「いや、それはないだろう」と思いました。
それは、奈良には「大仏商法」という風土があるから。
奈良には昔から大仏を目指して多くの人が訪れるので、その道すがら立ち寄る客を相手に適当に商売をやればどうにか生活していける、という考え方が地元民には根強くあるようなのです。
そのため、「商売っ気がない」といわれています(※3)。
確かに、今でも街を歩くと、ビジネス素人の私でさえ「もう少しこうすれば売れるのに」と思ってしまうような価格設定やデザインのお土産品をいろいろ見かけます。
こういった理由から、私は当時「今後、奈良は商業地としても観光地としても、これ以上にぎわうことはないだろう」と考えていました。
ところが。
この、異常なインバウンド好景気はなんなのか。
奈良のインバウンド特需の理由は京都にあり⁈
奈良には観光名所が多数あるのに、昔から「奈良の夜は早い(=夜飲食するお店がない)」と言われています。
その理由の一つは、観光客が奈良には宿泊せず、京都に泊ってしまうから、だと地元の方から聞きました。
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切実さがにじみ出ていてるポスター@JR奈良駅 |
快速で1時間かからず、奈良から京都まで行けてしまうので、選択肢の多い京都にいってしまうのでしょう。
こういう日帰りで観光客が通過してしまう観光地は、奈良の他にも全国各地にありそうです。
10数年前、奈良の中心部には、宿泊施設が少なく、駅前にもホテルがほとんどありませんでした(全日空とワシントンホテルとスーパーホテルだけ、みたいな感じ)。
泊まるお客さんがいないので、ホテルも儲からないし建設されない。
そうなると、夜の飲食するようなお店もできない、という悪循環です。
宿泊も夕飯も、その後、街で飲むのも京都だと、観光地なのに奈良には入館料しかお金が落ちず観光産業が成り立たない、という状況が長年続いていたのだと思います。
そこで、じゃあ奈良が必死に何か対策をしたか……というと、実はあんまり何もしていなかったのではないか、と思っています(笑)。
地域活性化ビジネスの専門家などがみても、ほとんど何も取り組んでいないような状況だったと思います。
せんとくんを作ったり、奈良なりにがんばってたのかもしれませんが……。
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せんとくん@近鉄奈良駅 |
話は少し変わります。
昨年、私は久しぶりに京都へも行ってみました。
そのことが、奈良の変化の理由を探るヒントになりました。
京都で感じたのは、街中の渋滞や混雑の悪化。
10数年前の京都よりはるかにひどくなっていました。
京都は東京と比べると街が比較的コンパクトなので、移動にはバスや自転車が便利です。
特にバスは本数も多く整備されていて、生活者の足にもなっています。
しかし、去年訪れた際、ラッシュ時でもないのにひとが多すぎて、「満員で乗れません」とバスが通過していくことがありました。
観光客の増加により、地元民のバスの利便性が低下してしまったのです。
地元の方に聞くと、観光客が増えすぎたため、バスの1日券が廃止されるとのこと。
京都観光に便利な市バス1日乗車券、9月で廃止…理由は混雑緩和
(令和5年9月末で発売停止、令和6年3月末で利用停止)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230209-OYT1T50180
観光客だけでなく地元の方も1日券を活用していたようなので、地元民にも残念な変更です。
また、増えたのはインバウンドの旅行客だけでなく、京都市街地のマンション等を投資目的で購入する海外の方も増加していて、不動産も値上がりしているとのこと。
これらの情報から思うのは、以下の方々が奈良へ流れてきたのではないか?ということです。
- 観光客向けのカフェや雑貨屋などが増えすぎて、京都では商売が難しくなったひと
- 観光客向けのカフェやゲストハウスを始めたいが、京都では高すぎて物件が借りられないひと
京都とは趣は異なるものの、もともと歴史的な観光資源には恵まれた土地なので、泊まるところがあって食べ物があれば、インバウンドの需要は高いでしょう。
おそらくこういった理由から、現在、奈良には小商い的な、手作り感あふれるお店が雨後の筍のようにできています。
自治体が主導したとかではなく自然発生的なこの状態は、ちょっと途上国的な活気があって、面白いです。
実は、2010年ごろの奈良のもちいどの商店街がシャッター化していた時代に、地元主導で、中心市の活性化のため、お店をはじめてやるような方がハードル低く開業できるチャレンジショップスペースが商店街の一角に作られたことがあります(現在もある)。
しかし、意図して作ったこういうスペースは、なかなか思惑通りに活性化しないようです(松本市内にもありますが……)。
やる気のあるひとたちの新しいお店ばっかりなのに、なぜか活気がないんです。
今はここにも多少活気がみられますが、どちらかというとこの施設の裏側にある、細かい路地がにぎわっています。
その辺りは、町家や古い家が密集しているのですが、そういった場所を若いひとが改装してカフェにしたり、ちょっとした空き地にピザのキッチンカーがやってくるようになり、「なんか面白そうなことやってるぞ」とひとが集まってきた感じがします。
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ピザのキッチンカー Kinari Pizza
https://nara.jr-central.co.jp/kankou/article/0247
いつも混雑。なかなか買えません。
こういう現状を見ると、自治体や地元民主導でチャレンジショップスペースを作って街を活性化させることの難しさを感じます。
「猿沢池前にスタバはやめたほうがいい」と、私も思う
結局、主体的に動いたというよりも、京都からのおこぼれで発展しているようにも思える今の奈良。
ですが、こういうところも奈良らしいというか、奈良の強さなのかもしれません。
他力本願な奈良に、わりと肯定的になってしまっているのですが(笑)、それでもちょっとこれはないよね、という反発を感じるのが観光名所に次々にできているスタバです。
ちきりんさんがVoicyでおっしゃっていたように、奈良観光の一等地にスタバができているのは、かなり残念だなと私も思います。
奈良の大和茶や古代米のおにぎりや五平餅、奈良漬を使った定食やスイーツなどが食べられるカフェを出したらいいのに、と思います。
裏通りにはたくさんのカフェや個人経営のお店があるのですが、目立つ一等地にはスタバが進出しています。
インバウンドの観光客にとっての奈良の玄関口である、JR奈良駅前。
ここには、旧駅舎を活用したインバウンド向け観光案内施設に併設してスタバが。
<参考>
大正モダン建築「JR奈良駅駅舎|観光客を迎える、異形の和洋折衷駅舎」
https://nara-atlas.com/architecture/construction/src/88
また、さらに衝撃的だったのが、猿沢池という奈良屈指の憩える観光スポットの目の前の高級旅館の1階が、スタバになってしまったこと。
猿沢池(興福寺にクレーンが) |
猿沢池前のスタバ(向かって右が猿沢池) |
実はこういった傾向は、奈良だけでみられるものではありません。
京都も観光スポットにスタバを作っているそうで、私は長野市の善光寺の門前でスタバをみかけ仰天した過去があります。
宿坊に着想を得た店舗デザイン!
信州善光寺のお膝元で歴史と文化を守り、新たに紡ぐ(長野県・長野市)
https://stories.starbucks.co.jp/ja/stories/2021/community_store4
スタバはもはや観光名所? 京都二寧坂ヤサカ茶屋店がオープン!
畳座敷でコーヒーを堪能できる”和”のお店とは?
https://www.bushikaku.net/article/34886
海外渡航経験の多いちきりんさんは、別のVoicyの配信においても「先進国ではスタバはおしゃれなカフェでもなんでもなく、ただのテイクアウトのコーヒー店であり、途上国へいけばいくほどスタバがおしゃれになっていく」ということをおっしゃっていました。
つまり、「観光名所におしゃれなスタバを作る」ということは、せっかく日本独自の和の文化にあこがれてやって来たインバウンドのお客さまに「私たち、自国の文化よりアメリカに憧れています」という後進国マインドを、丸出しにしてしまっているような状態なのです。
これは、国内だけで生活しているとなかなか気づけない感覚だと感じました。
もうちょっと分かりやすい例を。
1971年にマクドナルドが日本に初上陸したとき、どこにできたかというと、銀座のデパート三越の店内でした(※4)。
今聞くとびっくりですよね!
そのくらい、ファストフードハンバーガーショップのアメリカナイズされたカジュアルさが、日本ではかっこよく見えていた時代でした。
「京都や奈良の観光名所の一番いい場所にスタバを作る」ということは、現在の日本人の視点に置き換えると、スタバではなくマクドナルドがあるのと同じような感じなのだと思います。
これでは、日本文化に魅力を感じ、観光地を訪れたインバウンドの方はがっかりしてしまうでしょう。
観光地の価値を自ら下げてしまっているような状態です(スタバやマックが悪い、と言っているのではありません。観光名所に作るのはやめようよ、という話です。私はスタバもマックも好きでよく利用します。念のため)。
特に、観光客のほとんどがインバウンド(と修学旅行生)の奈良では、観光名所にスタバを増やすことは得策ではないと感じました。
奈良にはゲストハウスがいくつかでき始めましたが、ゲストハウスのスタッフには海外をバックパッカーとして周ったりした経験がある方も多いと思います。
奈良の観光名所にスタバができ続けることを、私以上に苦々しく見ている方はいらっしゃるかもしれません。
おわりに
松本でお世話になった方々に奈良のリアルな今をお伝えしたくて、こんな記事を書いてみました。
特に関西や首都圏において感じることとして、「この街はこんな感じ」と、街にキャラ設定をしたがる傾向があるかと思います。
そして、そのイメージから外れると、よい方向に変わっていても、なぜかあまり放送されません(ネットにも載らない)。
関西では、奈良はおっとりしていてちょっとぼんやりしている、いじられキャラ的な位置づけがあるように思うのですが、そこから外れた異常なインバウンド景気を「奈良っぽくない」「奈良のキャラと違う」と、関西のメディア全体が報道を控えた。
私にはそんな感じに思えました。
結局、情報は操作されていて、その街に行って自分の目で見ないと、こういう重要な変化は分からないのだ、と今回思いました。
小商いやスモールビジネスにチャレンジしてみよう、という方には奈良はいいかもしれません。
すでにそれに気づいたひとたちによって町家は人気で、最近は空きがないようですが……。
昨年、変化した今の奈良について、お試し移住時にいろいろ情報提供くださったゲストハウスはこちら。
SLOW HOUSE NARA
https://www.slowhouse-guest.com
奈良の書店・古本屋さん関係の情報も教えていただきました。
ゲストハウスの共用本棚には、小商いやphaさん、伊藤洋志さんの本もあり、私と似た考えの方々が、奈良でお店を開きつつあることに興味を持ちました。
<参考サイト>
※1
みやこ路快速
京都ー奈良間をつなぐJRの路線。京都から奈良へ向かう際は、これか、近鉄の急行に乗るのが一般的。
※2
2013年1月20日閉店。以下の記事に閉店時のようすが写真と共に紹介されています。
「近鉄奈良駅と鹿とビブレと、バンギャルの私。」
https://suumo.jp/town/entry/nara-kanimen
※3
「まちおこしがビジネスだって忘れてない!?」木下斉×飯田泰之『稼ぐまちが地方を変える』刊行記念トークイベント より
https://synodos.jp/opinion/society/15346
※4
日本マクドナルド(Wikipediaより)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%89%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%89
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