今回も、図書館員(図書館司書)を目指すひと向けの内容です。
ですが、一般の方が読んでも、図書館員の働く姿がリアルに分かり、なるほど!と思っていただけるかもしれません。
もちろん、図書館で働きたいという方には、実際の仕事のイメージとのギャップを埋めるには役立つ内容だと思います。
↓こちらの記事の冒頭に、このシリーズの趣旨などを書いています。
図書館員(図書館司書)は女性向きの仕事か?
図書館では男性よりも、女性の職員の姿が目立ちますよね。
では、図書館員は女性向きの仕事なのでしょうか?
私は決してそうだとは言いきれないように思います。
正直なところ、図書館員の仕事は、体力・筋力的には決して楽な仕事とは言えないからです。
おそらく、女性が多いという現状は、多くの方が利用する公共図書館や小中高の学校図書館では、正規雇用ではなく非正規雇用(派遣や臨時職員やパート、アルバイトなど)が多いためです。
男性が家計を支える収入源となり、女性は専業主婦か家計を補助するための働き手である、という時代の名残であり、「スーパーのレジ係や銀行の窓口業務に女性が多い」ということと同じく、労働におけるジェンダーの問題が表面化している、と考えるのが妥当だと思います。
「資質的に女性向きの仕事だから女性が多い」というわけではない、というのが実感です。
図書館にはさまざまな種類がある
ところで、図書館員を目指している方ならご存じかもしれませんが「図書館」と一口に言っても、さまざまな館種があります。
図書館司書講習のテキスト、浜口美由紀『図書館概論』(近畿大学通信教育部,1999)を開いてみると、p.12から利用対象者別の視点で図書館の分類についての記述があります。
それをもとに、ざっくり分けてみると、こんな感じです。
-
公共図書館
都道府県や市町村など自治体が設置している図書館 - 学校図書館
小中高の生徒が利用する図書館 - 大学図書館
大学・短大の教職員および学生が利用する図書館 -
専門図書館
専門分野の研究者、企業・団体所属の利用者・登録会員、一般の方が利用する図書館
この他にも、国立国会図書館などがありますし、「図書室」と呼ばれているものも含めるともっと多くの種類があります。
こういった館種や図書館の規模により、図書館の日々の業務はかなり変わってくる、ということを念頭において、読みすすめていただけたらと思います。
覚悟しておいた方がいいことはこの三つ
その上で、どの図書館で働くことになったとしても、共通して覚悟しておいた方がよいと思われること。
それは、①腰痛、②腱鞘炎、そして③ホコリ・カビによる健康被害、の3つです。
腰痛
これについては、図書館に勤めたことがなくてもおおよそ想像がつくのではないでしょうか。
図書館以外の本を扱う仕事(書店、古本屋勤務など)においても、近い状況があるのではないか、と思います。
本の世界では、電子書籍やオーディオブックなどデータになった本が登場し、現在、図書館でもそういったものを扱っています。
しかし、図書館が保存している資料の多くは電子データになっていなかったり、電子化するのが難しい資料が大半で、これらは紙で保管されています。
つまり、重いです。
図書館では、こういったたくさんの資料が入った箱を持ち上げたり、ブックトラック(本を運ぶための、業務用の可動式本棚のようなもの)にたくさんの本をのせて運ぶような作業がしばしば発生します。
![]() |
ブックトラック |
このような作業はやはり腰への負担が大きく、男女の筋力や体力の差を感じながら仕事を進めることが多かったです。
ダンボールに入った本を持ち上げるよりも、地味に負担がかかる作業とは?
次に②の腱鞘炎です。
これは、ちょっと想像が難しいかもしれないですね。
日々の配架と書架にスペースを作るための作業の際、ひとによっては腱鞘炎のような症状に悩まされることがあるのです。
まず、「日々の配架」について説明します。
これは利用のあった本を本棚(書架)の元の場所に図書館員が1点ずつ戻す作業のことです。
図書館には毎日たくさんの本が返却されます。
私は図書館員になってみて初めて、その量の多さに驚かされました。
図書館のいち利用者だったころの私は、ひとりが取り出す本の冊数は、貸出の上限、つまりせいぜい10冊くらいだろう、というイメージを持っていました。
しかし、図書館を利用するのは、余暇に読む本をDVDをTSU○○YAでレンタルするような感覚のひと(=かつての私)ばかりではありません。
調査や研究のために訪れている方も多くいらっしゃいます。
調査に来られた方が調べものをなさる場合、一定期間の逐次刊行物(=雑誌や新聞など)を一覧することもあり、一人の利用者が数十冊を請求する(=利用者が書庫などから本を出してほしいと依頼すること)こともあるのです。
これも返却後、一冊ずつ、職員が所定の場所に戻します。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、図書館の資料は「この資料が見たい」といわれた際にすぐにとり出せるように、一定の規則にのっとって順番に並んでいます。
そのため、「だいたいこの辺り」という、ざっくりした戻し方はできず、定位置が決まっています。
そういったことから、返却作業には一定の時間と手間がかかります。
こういう話をすると、Amazonの倉庫で商品をピックアップする様子をイメージして、「それなら、戻す作業を機械化すればいいんじゃないの?」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
しかし、これがなかなか現実的ではないのです。
もし機会があれば、図書館のバックヤードを見てみていただくと、実感していただけると思います。
図書館で扱っている資料は、皆さんが思っている以上に、さまざまなサイズや厚さがあるのです。
そして、その資料はサイズ別ではなく、その本が扱っている主題(テーマ)別にグループ分けされ、そのグループ内で順番に並べられ、管理されています。
そのため、本を書架に戻すときに、ものすごく厚みのある本の間に、非常に薄い冊子状の本を戻したりする、というケースも出てきます。
この作業は現在のところ、機械で行うのは難しいと思います。
また、あまり知られていないかもしれませんが、図書館は「本」以外の資料も所蔵しているのです。
「そういうものは図書館じゃなくて博物館が保管しているんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、図書館にも「本以外」の資料がたくさん保管、管理されています。
図書館では本も含めて所蔵しているものを「資料」と呼びます。
これは、本や冊子のような形態ではないものも図書館は集めているので、こういう言い方をしているのです。
冊子になっていない一枚ものの地図やDVDなども「資料」の一種です。
また、郷土資料(※1)として、かるたやボードゲーム、おもちゃなども含めて蒐集している図書館もあります。
こういったものを、元の状態(箱に戻すなど)に整えた後、所定の位置に戻す、ということも機械化は難しいと思われます。
そんなわけで、図書館の資料の返却作業は、ひとの手で行なっているというのが現状なのです。
特に本を書架に戻す、配架作業の場合、一冊ずつブックトラックにとりに戻っていては時間がかかりすぎるので、5,6冊の本を抱えながら配架することになります。
作業としては、配架する予定の本を数冊小脇に抱えつつ、並んでいる本が倒れてこないように左手で押さえてスペースを作ります。そして、両脇の本の表紙などを傷めないように注意を払いつつ、右手で本を所定の位置に差し込む、という感じです。
これ、見ていると楽そうなのですが、やってみるとなかなか大変です……(朝のテレビ中継で、農家さんの収穫や摘果作業が流れることがあります。簡単そうに見えますが、これを農家さんの代わりにレポーターがやってみると、上手くできない。まさにあの感じです)。
この配架作業、何度も繰り返していると、利き手の手首に負担がかかってきます。
女性であっても、スポーツ、例えばバレーボールのアタッカーなどをやっていた方は、手首が強いのではないかと思いますが、そのように手首を鍛えた経験がない、一般の女性は、男性よりも手首そのものが細く、負荷に弱いんですよね。
カラー印刷だと、一冊が1kg以上あるものは珍しくありません。
毎日の配架作業が、軽めのダンベルやペットボトルを持って、手首のスナップ運動を繰り返しているような状態だと考えてもらえれば、手首に負担がかかっていることが理解できると思います。
腱鞘炎のきっかけになるのは、配架作業だけではない。
うちでは日々の本の返却(配架)はアルバイトさんやボランティアさんにお任せしているよ。
そのような図書館もあると思うのですが、配架作業を毎日やらなかったとしても、職員が避けては通れない、腱鞘炎を起こしやすい作業があるのです。
それが、書架(本棚)にスペースを作るための作業です。
図書館の本は扱っている主題(テーマ)ごとにある一定の規則に従って、順番に並べられている、という話は先ほどした通りです。
そのため、本が増えてきたときに、新設した棚に、新しく受入(≒入荷)した本から並べる、というやり方が使えないのです。
例えば、「日本文学」の棚が、パンパンに詰まっていて、新しい本を入れるゆとりがない状態だったとしましょう。
新しく受入(≒入荷)した中に日本文学の本があった場合、それが入るように前後の本を少しずつずらし、スペースを作る必要があります。
上下の段へ移動するだけで済む場合はまだいいのですが、場合によっては隣やもっと向こうの本棚の空きスペースへ、順番を崩さないように本を少しずつずらし、本を入れる隙間をつくる作業が発生します。
この作業が腱鞘炎を誘発するのです。
ピアノなどの鍵盤楽器でオクターブを押さえるような感じで、親指から薬指あたりを大きく開いて数冊の本を挟み(もちろん1kg以上ある)、隣の本棚に移動する、という運動が何十回と繰り返されます。
これは二の腕の筋肉にも効くのですが(しかし、二の腕が細くなったという情報は図書館員から聞いたことがない)、どちらかというと、重いものを指で挟んだままそらせている手首と、広げた指の関節に負担がかかります。
この作業は短時間で終わることは少なく、蔵書点検の時などに長時間、数日連続で行われることも多いです。
これがきっかけで腱鞘炎を患ってしまった、という図書館員の話も聞きます。
私もどちらかというと腱鞘炎気味で、痛いときは手首にサポーターをしながら作業をしていました。
腱鞘炎は男性よりも手首や指が細い女性がなりやすい、と聞いたことがありますが、多くの女性に不向きと思われるこの作業も、本の配架と同様、機械化は難しく、今後もしばらくはひとの手で行われるのではないか、と思います。
いくら本が好きでも、カビとホコリに弱い人は図書館で働くのは厳しい
そして、③のカビとホコリによる健康被害。
図書館というと、一般の方とっては「カウンター業務のイメージが強い」という話は↓こちらの記事で書いていますが、
実際は、書庫などのバックヤードでの作業は、かなりあります。
「請求された本がすぐに取り出せる」ということは、本が所定の位置にあり常に整理されている、ということであり、日々新しい本や雑誌、寄贈資料が入ってくる図書館においては、バックヤードの整理は大事な作業です。
また、開架(=一般の方が自由に取り出せる本棚にある本)ではなく、書庫に置かれている資料の出納(=図書館の資料を取り出すこと)も頻繁にあるので、バックヤードを行き来する機会は多いです。
書庫に出入りするのは基本的に職員だけなので、利用者の方が過ごされる空間とは違い、毎日清掃員が入るわけでもないですし、本などの資料にはホコリが積もります。
また、私がこれまで勤務した図書館には、増え続ける本の置き場所がなく、以前はほかの用途で使っていた部屋に本棚を設置し、書庫を拡張していた館もありました。
こういったことを行うと、もともと大量の本を収めるために設計された部屋ではないので、床が絨毯敷きでホコリをため込みやすかったり、空調による湿気がたまりやすかったりして、ホコリをエサにしてカビが発生することがあります。
また、もともと書庫にするために設計された空間であっても、設計ミスにより思わぬ場所から湿気が侵入してしまったりして、カビが大量発生したこともありました。
これらの書庫には、100年以上前に出版された古い本もたくさんあり、そういった本はやはりホコリっぽいです。
最近はカフェのような開放的な図書館も増え、こういった図書館の一般の方が目にする場所(開架)には、比較的きれいな、新しい本が並べられているかと思います。
でも、このような今どきの図書館も、いったん書庫へ入ればたくさんの古い本を抱えておられることと思います。
長年のホコリを蓄えた本に、湿気やほかの空間からの微生物を含んだ空気などが入り込むとカビが発生します。
カビに悩まされていない図書館はないのでは……、と思ってしまうくらい、古い書物を扱う保管する「図書館」という空間では、日々、カビやホコリと接することになります。
参考:図書館総合展での図書館員向けのカビ対策セミナーのポスター
https://www.nakabayashi.co.jp/_files/_ck/files/190927_event.pdf
残念ながら、図書館は決して衛生的な職場環境ではありません。古いものを扱う、というのはそういうことです。
私もあまりカビやホコリに強い体質ではなく、書庫で作業をすると、開架スペースで同じ作業するときよりも明らかに疲労感を感じたり、作業後に強い眠気に襲われることが多々ありました。
おそらく、カビやホコリによるもの
それでも、私の場合は仕事を辞める理由になるほどの辛さではありませんでした。
ですが、アトピー性皮膚炎の方や気管支の弱い方、花粉症症状の強い方は、ホコリでアレルギー反応が出て、深刻な状況になる方もおられるようです。
図書館で大掛かりな蔵書点検をする際に来てくださったアルバイトの方が、一日目でホコリによる体調不良が出て、花粉症用のゴーグルとマスクをして二日目から出勤された、という話も耳にしたことがあります。
毎日の作業にここまでの防備が必要だと、出勤そのものがしんどくなってしまいますよね。
もし、その方が本が大好きで、図書館の仕事にやりがいを感じていても、蔵書点検のたびにこんな装備で出勤することになれば、勤務を続けることは難しいのではないか、と感じます。
では、図書館に所蔵されている大量の資料をホコリがかからないように保存したり、毎日すべての資料のホコリを取り除く掃除をすればいいのではないか?ということになりますが、これは、ただでさえ予算がなく、職員への給与さえ十分に支払われていない(人件費を抑えるため、多数の非正規雇用職員でなりたっています)図書館の実情を考えると、不可能だと思います。
(もしかしたら、国立国会図書館のような閉架がメインで予算規模の大きな図書館では、ある程度行われているのかもしれませんが)。
私の幼いころに比べ、アレルギー体質の子や花粉症を患っておられる方は増加傾向にあると思います。
本が好きで図書館の仕事に情熱があり、使命感を持っている方でも、気管支や皮膚が弱かったりアレルギー体質の方は図書館で働き続けるは難しい、というのが現状です。
さいごに
一般には、図書館員というと元文学少女(文学少年)的な、インドアで線が細いイメージが強いかもしれませんが、一般の事務職よりも、確実に力仕事が多い職種だと思います。
また、筋力だけでなく、腰痛になりにくいこと、カビやホコリにも体質的に強いことが求められます。
本の知識や図書館員としてのスキルについては、就職後に勉強することでカバーできますが、体質については努力での改善は難しいのではないか、と思います。
私自身は、体力面だけもカバーしようと、図書館員になってから食生活を見直しました。
それまで事務職でデスクワークをしていたときの朝ごはんや昼食のメニューは、朝はトーストとコーヒーとヨーグルト、昼はコンビニのおにぎりや菓子パン、という炭水化物オンリーの、空腹が満たされればいい、というような食事でした。
しかし、図書館で勤務し始めてから、そのメニューでは、文字通り目が回ってしまうことが増え、午後から体力も集中力も持たなくなってしまったのです。
周りをみると、ミスが少なく、高いパフォーマンスで仕事をしている同僚や先輩は、お弁当を毎日作っていることに気がつき、私も真似することにしました。
おかげで、朝食や昼食のメニューが、こんなに大きく仕事の集中力やパフォーマンスに影響するんだ、ということを体感するきっかけになりました。
今は図書館ほどの体力は必要ない座りっぱなしのデスクワークですが、お弁当生活は続けています。
この記事が、図書館員を目指すあなたの参考になりましたら、うれしく思います。
<参考記事>
※1 郷土資料
その地域の地方史誌や地域の情報資料、地域の特色をあらわす資料などのこと。雑誌・新聞(タウン紙、地方版など)も含む。
下記のウェブサイトを参考。「富士見市立図書館 郷土資料について」
https://www.lib.fujimi.saitama.jp/guide/material.html
(2024.8.14
sited)
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