本屋さんの場合はどうなのだろう?
「仕事の時間中に読書ってできるのかな?」
図書館員になりたい方にとっては気に部分なるですよね。
やっぱり、「本が好き」「読書が好き」という動機から図書館員を目指す方は多いと思いますし、「仕事の時間に本が読めたらいいな」と思うのも、もっともです。
この記事ではまず、図書館の話をする前に本屋さんの場合はどうか、ということを見ていきたいと思います。
というのも、図書館員がこの問題(仕事中に読書できるか)についてハッキリ本の中で答えているのを見かけたことがないのですが、本屋さんに関する本についてはこれについて少々言及されているものがあるからです。
その本はこちら。
内沼晋太郎(2018)『これからの本屋読本』NHK出版
版元ドットコムへのリンク実はこの本、著者によりネットで全文が無料公開されています。項目を辞書的に引くような使い方をされる方も多いと思うので、本の形態の方が読みやすくおすすめですが、内容をちらっと読んでみたい方は以下リンクをご覧になってみてください。
note 【全文公開】これからの本屋読本出版された直後に手に入れ、その後も非常にお世話になっている一冊です。
図書館と本屋さん、古本屋さんというのは、本を売ったり貸したりしている仕事ということで、ひとくくりにイメージされる方が多いかもしれません。
しかし、図書館で働いていても、書店や古書店の仕事の流れはまったくといっていいほど知る機会がありません。
私の場合、結果的に、図書館員の道を選びましたが、書店員や古本屋さんになることも選択肢にあったため、書店や古書店の1日の仕事の流れや仕入れの方法などにはずっと興味がありました。
そして、この本と出会い、ようやく本屋さん(古書店ではなく新刊書店)の仕事の流れを知ることができました。
また、この本は、個人で小さな新刊書店を開業したいひとや、雑貨屋やカフェなど、異業種だけど本を仕入れて扱いたいといった方たちに向けて書かれていますが、『これからの本屋読本』が出るまで、そういった本は、ほぼなかったのです。
ちょっと意外かもしれません。
「個人で本屋を開くための本なんて、昔から出版されているんじゃないの?カフェと同じくらい、小さい本屋をやりたいひとはたくさんいそうだし」と、思ってしまいますよね。
しかし、この本が出るまで、そういう方向けに書かれた開業手引書はなく、画期的な一冊でした。
その理由は、本の仕入れがかなり複雑であるから。
また、書店業界で実際に仕入れを経験したひと出ないと知ることが難しい、業界特有の商習慣などがあり、それは経験者のみが知っている情報だったからなのです。
内沼さんは本書の中で、ご自身の書店勤めの経験や、本を仕入れて服のセレクトショップに並べた経験から、本の仕入れの内部事情を惜しみなく公開してくださっています。
余談になりますが、石川県金沢市で『本と印刷 石引パブリック』というアート系の本を中心に扱う新刊書店を開いた砂原さんのインタビューを読むと、書店で働いたことのない個人が、小さな本屋を開くということがいかに大変か、感じることができます。
出版社と電話でやり取りしようにも、専門用語が多すぎて全く内容が分からなかったこと、取次との契約が叶わず物件まで見つけていたのに開業の話が白紙になってしまった経験など、大変な苦労をされており、その当時の砂原さんに「ここに解決のヒントがあります!」と『これからの本屋読本』を手渡したくなってしまうほどです(ちなみに現在は書店ではなく、リソグラフ印刷のお店に変わりました 。※1)。
話を戻しますと、『これからの本屋読本』には、個人で本屋を開業する場合の営業時間の長さをどうするか、という話題が出てきます。
そして、その項に「最初は短くはじめて、じっくりプライベートの時間を取る。本屋なのだから、本を読む時間くらいつくりたい、と考える方が真っ当だ。」(p.195)という記述があるのです。
ここからうかがえるのは、仕入れ業務や日々入荷される本の陳列、SNSのアップなどで忙しく、本屋では業務時間中に本を読む時間は確保が難しいということ。
統計(※2)によると、令和4年(これが最新のデータ)の一年間に出版された書籍は66885点。毎日、平均180点以上もの新しい本が出版されていることになります。
これは、仕入れる本を選定するだけでも時間がかかりそうです。読書の時間を営業時間中に作ることなど、とても難しいのではないでしょうか。
図書館員は仕事中に本を読めるのか?
では図書館ではどうか、というと、残念ながら、ほぼできないと思っていただいた方がよろしいかと思います。
図書館員はカウンターに座っているだけだし、暇そうな仕事だ、と思われることが多いのですが、実際は業務は多岐にわたり、かなり忙しいです。
図書館員が行っている業務にはどんな仕事があるのか、解説した記事はこちら↓
図書館の仕事には「企画展示」という、所蔵している資料(主に図書)をテーマごとに集めて展示コーナーを作る仕事があります。
例えば、こちらは奈良県立図書情報館の谷川俊太郎さんの追悼展示。
こういった作業をするときに、超高速で流し読みしたり、中を確認することはありますが、それは読書というよりも「本の選定」といった方が正しく、読書をしている感覚は(私は)ありませんでした。
また、大学図書館員時代、数か月かけて準備する大掛かりな企画展示に関わったことがあります(※3)。
この際も資料作成のための調べ物は業務時間中に行いましたが、本を読むのはプライベートの時間でした。
なぜ、本を読まねばならなかったかというと、展示する本の一部に書店のポップのような、本の紹介文をつける必要があったためです。
この他、非正規雇用で働いていた図書館員時代も、図書館のメールマガジンや、その年に出版されたものの中から児童書のおすすめ本を紹介するリーフレットに、本の紹介文を書く仕事があり、このときも本を読むのも紹介文を書くのもプライベートの時間でした。
というわけで、仕事中に本を読むことは期待せず、プライベートの時間も仕事のために本を読む時間を作れますよ、というひとが図書館員に向いているのではないか。というのが、私の意見です。
<関連記事>
<参考URL>
※1
石引パブリック
https://ishipub-printing.com/
※2
総務省統計局webサイト 日本の統計 第26章 文化 26- 5 書籍新刊点数と平均価格 より
https://www.stat.go.jp/data/nihon/26.html
※3
信州大学附属図書館研究 Vol.6「没後5年北杜夫展~作品に描かれた信州松本~」報告 :
北文学の継承と発信のために(村田, 輝)
https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/records/18738
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