デジタルデトックス読書会Vol.2にて、「夜、スマホから離れて、眠りにつく前に読む本
」というテーマで本を紹介させていただきました。
↓読書会のようすはこちら
今回補足事項も含めつつ、掲載させていただきます。
当日スマホを切っていて、情報をメモったり記憶できなかったという方も、読んでいただけたら嬉しいです。
夜寝る前、ようやく確保できた10分の読書時間。どんな本がいい?
私の周りは、フルタイムで働きながら子育ても家事もやっている、という方がたくさんいらっしゃいます。
自分のために使える時間がほとんどない。
読書については、寝る直前の、本当に10分くらい、なんとか時間がとれたら読む。
でも、一日の中でその時間をとても楽しみにしている、と聞きました。
こういう場合、どんな本がいいのでしょうか。
まず、すごく疲れてると思うので、登場人物がたくさん出てくる本とか伏線が複雑に張られているようなストーリーは追えないと思います。
また、あんまりミステリーとか漫画とか、夢中になって読んでしまって、気づいたら朝になっていたっていう本も、まずいと思うんですよね。
↓こちらもよかったらご参考に。
【医師監修】寝る前の読書で睡眠の質が高くなる?本を読む時に大切なポイントを紹介
眠るときには副交感神経が優位になる必要があるのですが、寝る前に好奇心を刺激するような、ワクワクする本や次の展開が気になる本を読んでしまうと、交感神経が優位になり、眠れなくなってしまいます。
そのため、一度読んだ本を再読するのがいい、と言われることも。
しかし、一日の終わりにようやく確保できた10分の読書時間に、前に読んだストーリーを知っているような本をまた読む、というのはもったいない気がします
(もちろん、一度読んだだけでは理解できないような難解な本や、お気に入りで繰り返し読みたい本であればいいと思うのですが)。
そこで、「夜寝る前に数分でいいので読書をしたい。①疲れていても読めて②学びもあり、でも③眠りを妨げないような本ってある?」という条件で本を選んでみました。
おすすめは『おやすみ短歌』
枡野浩一・pha・佐藤文香『おやすみ短歌 三人がえらんで書いた安眠へさそってくれる百人一首』(実生社,
2023)
まだ出版されてまもない本です。
「三人が選んで書いた安眠に誘ってくれる百人一首」とあるように、100人の現代歌人の短歌から眠りや寝具に関する短歌だけを集めた、百人一首です。
この数年、短歌は静かなブームで、興味をもってらっしゃる若い方も多いです。
「本のよろず相談」(【ご報告】サザンガク大感謝祭にて「本のよろず相談」ブースとして出店させていただきました!)のときも、おすすめの歌集はないか?という質問を、若い方から受けて、それを実感しました。
実は、私は短歌にはあまりよいイメージを持っていませんでした💦
なぜかというと、私が中高生のころはまだ文化的なスポーツとして、女の子はかるた(=小倉百人一首のこと)、男の子は将棋、みたいな文化が残っていたから。
それで、着物を着てかるたをお正月にする、みたいなお正月の行事が、書き初めと並んで、めちゃくちゃ嫌いだったんです(かるたも習字も苦手だった)。
また、高校時代は古文の時間に百人一首の小テストが毎回あって、無理やり暗記されられたのもいやでした。
こういう思い出があって、司書になっても短歌には触れずに、これまできたんです。
でも、この本を読んでだいぶん短歌の印象が変わりました。
例えば、第一首目(橋爪志保さんの歌)。
すやすや眠ているペットをなでるようなまなざしで、ひとの寝る姿をこんなにやさしく描写できるんだ!と、歌人の心のふくよかさみたいなものを感じました。
『おやすみ短歌』を手に取らなかったら、この歌とは出会えなかっただろうなあと思います。
また、短歌オンチの私でもタイトルを知っている、穂村弘さんのデビュー歌集『シンジケート』からの一首。
穂村さんの手にかかると、「路線バス」という、どこかノスタルジックでひなびた乗り物が、高級車よりもバイクよりもロマンチックな乗り物に変わります。
読んだ瞬間、まるでウォン・カーウァイのような世界が展開し、衝撃を受けました。
この歌集が、現代短歌の流れを変え、その後、短歌を志す若者に大きな影響を与えた、というのも納得です。
こんな風に、ちょっとめくるだけで、それまで短歌に親しんだことのなかったひと(私!!)にとっては、驚くような発見がありました。
また、三人の編者が一首一首に楽しい解説をつけてくれているので、私のような短歌アレルギーの人でもエッセイを読むように楽しめます。
ただ寝る前に読んでるだけで、100人の現代歌人の作品を、この一冊で知ることができるなんて、なかなかすごいことです。
編著者として名前を並べるお三方のうち、枡野さんは歌人、佐藤さんは俳人。
phaさんは当ブログにも何度かちょこちょこ登場していますが、phaの日記(https://pha.hateblo.jp)というブログを長く運営されているブロガーさんです。
もともとは「京大卒のニート」という経歴から、注目されるようになったようです。
現在は、本屋さんの店番や出版もされているので、「ニート」ではなくなった、とご本人はおっしゃっています。
ご自身でも詠んでおり、ブログにも初期のころから作品を掲載してらっしゃいます。
疲れていても読める
では、先ほど挙げた三つのポイントについても、この本を照らし合わせてみましょう
①疲れていても読めて、という点。
この本のまえがきにも書かれているんですが、どこからでもどの短歌からでも読めます。
解説から読んでも構いません。
ストーリーを追ったり、たくさんの登場人物を覚えたりもしなくていいです。
この本のまえがきなどはこちらから試し読みができます。
学びがある
次に②学びがあり。
これは重要なポイントだと思っています。
なぜなら、学びがなくてもいいのなら、内容を知っている、前に読んだ本を読めばいいからです。
眠りも妨げられないし、疲れていても読めるでしょう。
でも、みなさん、それだけではなくて学びがほしい。
つまり、新しい何かとの出会いがほしいから、本選びに悩むんだと思うのです。
この本は、寝る前にうつらうつらしながら読むだけでも、現代歌人100人の作品に触れることができます。
これは大きな「学び」なのではないか、と思います。
というのは、短歌についての情報って受身で待ってても、自動的にはやってきません。
今は、ぼーっとしててもテレビとかSNSとか、向こうから情報がどんどんやってきますよね。
でも、そういう受け身で得られる情報って、誰かが売りたいものにつながっていて、情報っぽくみえるけれども、実際は広告だったりするのです。
一方、短歌について知るには、自分から能動的に情報をとりにいかないと難しいと思います。
短歌の本を読むとか、NHKのラジオ番組「文芸選評」を聞いてみる、などです。
私は能動的に自分から情報をとりにいかないと得られない内容は、「学び」に含めてよいのではないでしょうか。
眠りを妨げない
そして、3番目。
「眠りを妨げない」っていう意味では、そういう目的で編集された本なので、ばっちりだと思います。
この本のような「眠れぬ夜のために」とか「眠る前に読む」というコンセプトの本は、実はこれまでにもいろいろと出版されています。
私も読んだことがあります。
でも、そういう本は、厳しい言い方ですが、「アイデア勝負」というか、そのコンセプトで出したという点に満足してしまっていて、中身が薄いような気がします。
中身で勝負している、普通の小説とか文学作品に比べたら、つまらない感じがします。
でも、この『おやすみ短歌』は違います。
他の「眠れぬ夜」系のコンセプト本とは一線を画していて、アンソロジーとして質が高いし、「読み終わったらB○○k○ff(伏字にする意味はあるのか)へ」という本ではなく、ずっと手元に置いておきたい、と感じたので紹介しました。
さいごに
今回は思いがけず、私がひとにおすすめする本を選ぶときの、思考プロセスのようなものが露呈した記事となりました(笑)。
最初は「眠れなくて」とか「眠る前に」という、気軽なきっかけで読み始めたけれど、いつの間にか短歌に魅せられて短歌サークルにまで入ってしまった。
そんなことがおこっても不思議ではないような一冊、『おやすみ短歌』ご紹介しました。
機会がありましたら、ぜひ手に取ってご覧いただけたらと思います。
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