年齢や性別を超えておすすめできる本

2024/03/19

本紹介

前回、初対面の方に本を紹介する難しさについて書きました(「私の読書生活は「他人のための読書」が8割」)。
今回は私がどのような本を紹介しているのか、実例をお話したいと思います。

先日、歴史の古いものや昔のものに興味があり、エジプトへも旅行されたことのある方にお会いしました。

その際、初対面で本をおすすめする機会に恵まれました。

紹介させていただいたのは、小野美由紀の『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み、食べ、歩く800キロの旅』です。

「古いものに惹かれる」

「旅行の話をしてくださった」

このあたりをヒントに、こちらの本をご紹介させていただきました。

この本、実はこれまでも、さまざまな方に紹介し、年齢性別問わず、幅広い方から興味をもっていただいています。

私にとって、てっぱんの「おすすめ本」なのです。

思い入れのある本のため少し長くなりますが、3項目に分けて紹介していきたいと思います。

小野美由紀著『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み、食べ、歩く800キロの旅』(2015,光文社)

↓本の情報とあらすじはこちらhttps://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038670

小野美由紀著『人生に疲れたらスペイン巡礼 飲み、食べ、歩く800キロの旅』について

1.自分探しの旅

私は就職氷河期が終わった直後に新卒を経験した、いわゆる「ロスジェネ世代」です。

首都圏での新卒の求人数は回復してきてはいたものの、地方での求人はまだまだ少なく、募集のある企業は業種職種に関係なく、ほとんどすべて受けました。
介護施設も新聞社もIT企業も建築資材メーカーも。

そうしないと、大卒の女性が地方で総合職に就くことはできませんでした。

しかし、最初の就職から失敗。全く自分に適性がない業界に入ってしまいました。

その後、どの仕事も続かず、職を転々。

30を過ぎて正規雇用の図書館員となるまで、働くということは「収入を得るための避けられない行為」で修行の一環のようなものでした。

パート労働者や会計年度雇用職員など、立場が弱くなると、正規職員(正社員)同士では決して言わないような、心ない言葉を浴びせかけられたり、耳にしたりするようになります。

こういう状況で、自己肯定感を高めるのは難しいでしょう。

苦しくて辛くてたまりませんでしたが、食べていくためには続けるしかありませんでした。

街ですれ違うひと、通勤電車で乗り合わせるひと。

みんな自分の生活費程度は自分で稼げているように見え、「こんなに大勢のひとが普通にできていることが、どうして自分にはできないのだろう。こんなに努力しているのに。大学まで出してもらったのに……」という思いがこみ上げました。

私の関心はだんだんと、自分自身の能力の足りなさ、ふがいなさに向くようになっていました。

どの仕事も自分には続けられないように思え、次にどういう仕事に就いたらいいのか、全く分からなくなってしまったのです。

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「自分探し」という言葉が生まれたのは、ロスジェネ世代だったのではないかと思います。

「ニート」という言葉も、働いていない(働くことができない、の方が適切)ロスジェネ世代のひとを指す言葉として登場しました。

↓ニートやロスジェネについては、当ブログのこの記事でも触れています。

自分探しをしている人に対しての世間(特にバブルなど日本が上向きだった時期を経験している世代)からの風当たりは強く、「自分なんか探してないで、職を探せ」「働いてなくて余計な時間があるから、自分探しなんかするんだ」といった声まで出てきました。

しかし、一番きつかったのは、最初の就職活動で躓くことなくスムーズに働くことができた同世代の勝ち組からの「え?何、『自分探し?』だっさー」という視線です。

あのころ生まれた「自分探し」という言葉は、なんだったのかーー。

私は、こう考えています。

それまでは一定程度の学力や学歴があれば問題なく仕事に就くことができた社会が一転し、急に就職が難しくなった時代において、就職ができなかった原因が、社会ではなく「100%自分自身にある」と感じてしまった、責任感が強くまじめなひと達がとった、一種の自己批判なのではないか。

「みんなが働けてるのに、自分だけ就職できない。仕事に就けても続かない」という、急に社会の少数派になってしまったことによる不安感。

このような気持ちが、私たちの世代の就職でつまづいた人たちを自分探しに向かわせた一因なのではないか、と思っています。

なぜかというと、同じロスジェネ世代でも、上の世代と同じやり方でスムーズに職業生活に入れたひとたち(社会での多数派)は、自分探しに向かわなかったからです。

前置きが長くなりましたが、この本『人生に疲れたらスペイン巡礼』の著者、小野美由紀さんも、私と似たような状況で社会人生活をスタートしました。

私は実家に多少経済的なゆとりがあったことや地方勤務だったこともあり、通勤ができなくなったり、耐えすぎてメンタルに現れるほどの深刻な事態は回避できましたが、小野さんは自分を責め、パニック障害を発症。

通勤電車に乗れなくなり、失職する状況にまで追い込まれてしまいます。

若く体力と時間はあるけれど金銭的なゆとりがない中、答えをみつけるために向かったのがスペイン巡礼でした。

2.ガイドブックであり体験記

スペイン巡礼は、日本の「四国お遍路」のようなもので、キリスト教徒以外にも開かれた、自分と向き合うための道歩きです。

最終目的地は、スペインの北西にある、キリスト教の三大聖地のひとつ「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」。

全長は800キロ。

JR東京駅からJR新大阪駅までの移動距離は、556.4キロ(https://kurashi-no.jp/I0033686#head-00f81cf65b5630962d5be60d9b84b8bf)ということなので、いかに長い道のりであるか、イメージできるかと思います。

巡礼路を歩いた証明書は、聖地の100キロ手前から交付してもらえるので、100キロ手前から出発する人、800キロを何年もかけて分割してたどるひとなど、いろいろな巡礼者がいます。
このあたりも四国遍路と似ています。

この本は、お隣の韓国の若者にはよく知られているものの、日本ではまだポピュラーではない「スペイン巡礼」についての詳細な体験記です。

スペイン巡礼についてまったく知らない人が旅立つことができるよう、「巡礼に必要な持ち物は?」「いくらかかるのか」「キリスト教徒でなくても歩いていいのか」といったことから、巡礼路をイメトレできるようにおすすめの映画まで紹介されています。

また、旅情報をまとめただけではなく、小野さんが巡礼を通じて感じたことや出会った人びとについて書き留めた日記も、かなりのボリュームで収録されています。

小野さんの文章は、読んでいてつっかえるところがなく無駄がありません。
お手本にさせていただいている文章のひとつです。

3.根強いファンがいる、スペイン巡礼

小野さんは学生時代バックパッカーだったようで、本書の著者紹介欄をみると、学生時代のうちに22か国も周ってらっしゃり、海外旅行には慣れてらっしゃるようです。

そして、800キロのスペイン巡礼の道のりは、なんと計3回も歩いておられます。

小野さんのように世界中を旅した方の中には「スペイン巡礼は特別だった」とおっしゃる方はいて、例えば、こういう記事がネットにもあります。

世界中を旅している鉄人さんによる記事

そんな魅力的な旅行先であるにもかかわらず、日本では、いまだスペイン巡礼がそれほど広まっておらず、ネット上の旅情報もわずかです。

なぜでしょうか。

おそらくもっとも大きな理由は、日本人が定年後でもない限り、まとまった休暇をとることができないからではないでしょうか。

海外の方の中には、結婚する相手と、これからも長い人生を一緒にうまくやっていけるか、相性を確かめるためにスペイン巡礼へと旅立つひともいます。

こういった話を聞くと、欧米での、休みをとったり、キャリアをいったん中断することに対する柔軟さを感じます。

日本ももう少し、転職までの期間に空白期間を設けることや、一時的にキャリアを休憩することに寛大な社会になればいいのにと思いますが、同調圧力が強く、必要以上に「勤勉な態度」を仕事に要求する日本社会では、なかなか実現は難しそうです。

誰にとっても、自分について考える時間(環境)が必要な時代

スペイン巡礼には、新たなニーズが生まれているように感じます。

これまでは各国の、自分探しに迫られた若者が選ぶ旅だったかもしれません。

しかし、これからは働き方が多様になったことやAIの登場により将来的に淘汰される仕事が出てくることから、誰もが30~40代の間に、自分と向き合ってキャリアについて考える時間が必要になってくるでしょう。

数十年前のように「多数派の人生を選べば、大きく道を外すことはない」という社会では、もうないのです。

今、ワーケーションなど、地方滞在型のワークスタイルが出てきている背景には、現役世代が通勤や子育ての日常から離れ、仕事の合間にリフレッシュし、将来について考える時間と環境が欲しい、というニーズがあるように思います。

ただ、ワーケーション程度の非日常体験では、この先の長い人生のキャリアに思いをはせるのは難しいのではないか、という気もします。

そういった状況を考えると、日常から切り離された空間であり、しかも普通の旅行のような、買い物やグルメの誘惑があまりない環境で自分と向き合うことができるスペイン巡礼は、じっくりとこの先のキャリアを考える時間として、うってつけです。

また、定年を前にした60代前後のひとにとっても、スペイン巡礼は、人生100年時代のこれからを考えるのにぴったりな時間と環境を提供してくれるでしょう。

この本をおすすめした際、年齢や性別に関係なく多くの方から興味を持っていただける理由は、おそらく、人生はいつの時代も迷うことの連続であり、「巡礼」という行為が世代を超えてひとを惹きつけるからではないか、と思います。

人生に迷っているひとも迷っていないひとも、一度この本を手に取ってみられることをおすすめします。

読む前よりも気持ちが楽になり、世界が広がると思うので。

この本を手に入れるには?

現在は絶版。購入は古本、もしくは電子書籍(Amazonのkindle)です。
kindle Unlimitedでの読み放題対象です。
松本市図書館は所蔵なし。古本も値段が吊り上がっており、あまり流通していないようです。

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