こちらの記事↓で予告したように、自主企画のイベント「デジタルデトックス読書会」(以下、DDD)から学んだことをテーマ連載記事としてアップしていきます。
【次回記事の予告】思考の土台となっている3つの情報源について紹介します
今回はその第1回。
DDDのアイデアが生まれるまでのエピソードを中心にご紹介します。
※この記事は、メルマガVol.63の内容を再構成して掲載しています。
今回は、図書館員や書店員さんに届けたい、と思って書きました。
図書館や書店で働いている方の中には、こういった想いを持つ方も少なくないのではないでしょうか。
- 売れ筋ではないかもしれないけれど、一定にひとに響く、隠れた良書をおすすめしたい
- 絶版だけど、読み継がれていってほしい本がある
- すぐには良さには気づけないかもしれないが、じんわりと人生に響いてくるカタい本も手に取ってもらいたい
- 隙間時間に読めるような本ばかりではなく、腰を据えてじっくり読むタイプの本も読んでもらいたい
何を隠そう、私もその一人です。
しかし、今回のイベントはこういう考えのひとが企画したわりには、かなりゆるいイベントに感じられると思います。
↓「デジタルデトックス読書会」の概要はこちら
https://www.curious-g.net/2023/10/digitaldetoxdokusyokai.html
「読書会」と一口にいっても、昨今はさまざまなスタイルがあるようです。
昔からある王道的な読書会スタイルは、課題本が指定され、当日までに読了して参加者同士感想をシェアするもの。
もうひとつは、自分のおすすめの本やテーマに沿った本を参加者の前で紹介しあう、というスタイルです。
そのような読書会に比べ、今回の「デジタルデトックス読書会」(以下DDD)では、持ってくる本は自由。
本の感想や意見を交わす時間もありません。
この記事では、なぜこのようなゆるめの読書イベントをおこなうことになったのか、その経緯をご紹介します。
図書館や書店で「イベントを企画したい」という方にとってはヒントになるはずです!
みんなに共通する本の悩みとは?
まずは、私の状況をお話しすることになりますが、少しおつきあいください。
9月くらいまで前職(図書館員)の経験を活かして、本の検索や読書支援のような仕事を、フリーランスで行いたい、と考えていました。
イメージとしては「フリーランスの図書館員」のような感じです。
よく、図書館員と並列・比較される職業として、学芸員(キュレーター)があります。
しかし、現在、フリーランスで活躍するキュレーターはいるのに、フリーランスの図書館員は全くといっていいほどいらっしゃらない状況です。
ビジネスとして成り立つ形でやっておられる方は、私はお一人しか存じ上げませんでした。
その方は、非常に専門性の高い分野に特化した検索代行をされています。
私の場合、そこまでのスキルはありませんし、そもそも精緻な検索作業はあまり得意ではありません。
そこで、広く自営業や個人事業主の方向けの「選書サービス」や「検索代行」ができないか、と考え、模索しているところでした。
独自のサービスを検討する中で、さまざまな立場の方に読書で困っていること、本を探す上でどういうことを重視しているかなど、読書や本探しについてヒアリングをしました。
その結果、読書する派/ほとんど読書しない派のいずれの方からも、共通の悩みがあがってきたのです。
それは「そもそも本を読む時間がとれない、つくれない」ということ。
これは、元図書館員という立場としては、かなりショックな結果でした。
なぜかというと、例えば図書館は良書を紹介したり、企画展示をすることに力を入れているから。
しかし、こういった活動は「本を読む時間がある」ということが前提で相手に届くものです。
このアプローチでは、各年代にいる「活字中毒」のような超読書好きのひとか、読書の時間を苦労なく確保できるひと(リタイアした世代とか)にしか届いていなかった可能性がある、ということが明らかになりました。
今まで、自分は仕事で、全然違う方向に向かってむっちゃがんばって自転車をこいでいた。
なんだか、そんな気持ちになり、一気に脱力しました。
一日24時間、ひとに与えられる時間は決まっています。
まずは「質の高い本を紹介する」うんぬんよりも、読書以外に使ってしまっている時間を「本を読む時間」に変換してもらうためのイベントや企画を考えなければならない、ということに気づかされました。
個人事業主さま向けの「選書サービス」や「検索代行」を考えるにあたっても、有益な情報となりました。
そもそも多くの現役世代の方が本を読む時間を作れないのであれば、このようなサービス内容では、本当にごく一部の「本好き」しかビジネスターゲットにならない、ということが分かったからです。
そこでまず、「読書の時間をつくる、確保する」というニーズを満たすような読書イベントを考える。
ここからスタートすることにしました。
通常、図書館や書店などでは行われないような「え、そこから!?」という読書会です。
読書の時間をうばっているものは?
静かに本に集中できる時間をつくることが難しくなっている大きな原因は、スマホやSNSの存在です。
多くの人たちが読書の時間をするはずの時間を、ネット上のコンテンツやSNS利用のために消費してしまっています。
そこで、スマホの利用を抑えてもらい、そこから読書にあてる時間を捻出してもらうというアイデアを思いつきました。
DDDでは、普段自宅で積読している本(※1)をそれぞれ持ってきてもらい、会場で「読みたかった本をゆっくり集中して読めた!」という、満たされた気分を味わってもらえないだろうか、と考えました。
そのため、読書の時間中、身につけているデジタルデバイス(スマホ、タブレット、スマートウォッチなど)の電源を切ってもらうことにしました。
イベントの時間中、デジタルデバイスの電源を切ることを参加条件としたのです。
読書の時間がなかなかつくれない、意外な理由
また、読書の時間をつくることが難しい理由の一つは、読書が「ひとりで」「いつでも」「どこででも」できるからです。
これは読書のメリットでもあるのですが、実はこのことがかえって読書時間の確保を難しくしているのです。
「ひとりでできる。いつでもどこでもできる。」というのは、意識していないと「疲れたからまた明日にしよう」と先延ばしになったり、他の予定にいれかえてしまい、流れていってしまう、ということでもあるためです。
「やったほうが将来的に良いと分かっているけど、先延ばしにしてしまいがち」、という面では、読書と似ているものがあります。
何だか分かるでしょうか?
実は、ランニングやウォーキングなどの、長期的に見ると健康に影響する運動習慣と似ているのです。
ランニングも一人でできますよね。
でも、サークルをつくったり、日時を決めて友人同士で集まってやったりしている人もいます。
それはランニングが特に道具を必要とせず、身一つでどこででもできるため、他のもっと重要で緊急な用事を優先してしまったり、疲れたら先延ばしにしてしまいやすいからなのです。
私はランニングサークルに、読書イベントへのヒントがあることに気がつきました。
そして、読書もランニングサークルと同じようにあえて「イベント化」し、参加者にスケジューリングしてもらうことで「読書の時間をつくれない、確保できない」という悩みを解決してもらえないだろうか、と考え、DDDの骨組みができたのです。
デジタルデトックスを組み合わせて、オリジナリティを出す
その後、現在どのような形式の読書会が行われているのか、ネットで広く調べました。
そうしたところ、実はDDDが目指す読書版「もくもく会」(※2)のようなゆるいイベントは、対面・オンライン形式どちらも、全国的に行われていることが分かってきました。
しかし、「もくもく会」と「デジタルデトックス」を掛け合わせたイベントは、私が調べた範囲ではみつかりませんでした。
この掛け合わせのおかげで、デジタルデトックスに興味があるひとにも、読書の時間が確保したいひとにも、興味を持ってもらえたのかな、と考えています。
また、「デジタル機器をOFFにする読書会を、長時間デジタル機器と接する利用者の多いコワーキングスペースであえて開催する、というところが面白いね」というコメントを企画段階でいただくことができ、スムーズに企画を通していただくことができたのも大きな助けになりました。
今後は、読書の時間を作るサポートも、書店や図書館の仕事になる
本の仕事に就いて、日々、たくさんの本に接していると、
「売れ筋の本やベストセラー以外にも、もっと面白い本がある!」
「簡単に『分かる』本ではないけど、何年も後にじんわり効いてくる良書を紹介したい」
「これから社会へ出ていく若いひとに、ぜひこの本を読んでもらいたい!」
こんな気持ちが生まれてきますよね。
私も同じです。
でも、いい本を紹介しても、読む時間がない、というのが現代社会なのです。
今、求められている読書イベントは、読書の時間をつくったり、読書時間を確保する手助けをしてあげるイベントなのかもしれない。
その「手助け」も、本の業界にかかわるひとたちの仕事の範囲に入ってきているのではないか。
読書についてのヒアリングの結果から、そんなことを思いました。
本にとってのライバル企業は、映画や動画などのメディアコンテンツだけでなく、スマホやSNSやインターネット、ということです。
(この視点については、過去の記事【思考の土台となっている情報源②】ちきりん著『マーケット感覚を身につけよう これから何が売れるのか? わかる人になる5つの方法』で紹介されているちきりんさんの本をお読みいただければわかります)
私も、読書経験から出会えた「イチオシ本」を課題本に設定し、読書会をやってみたいという気持ちは持っています。
でも、それには、みんなに読書の時間を生活の中でつくれるようになってもらう必要があるのです。
DDDのような、これまではシェアハウスの中や、読書好きの有志によって開催されていたゆるいイベント。
こういった、参加のハードルが極めて低い、みんなに開かれた読書イベントについても、図書館や書店で開催を検討してみてはいかがでしょうか。
連載は次回につづきます。
<注釈>
※1
読もうと思ってはいるが、読めないままになってしまっている本のこと。「積んで置く」から「つんどく」→「積読」になったものと思われる。
※2
参加者それぞれが自分の持ってきた作業をもくもくとやることを目的としたイベント。
会によって、勉強や読書、プログラミング、手芸など、ジャンルが設定されていることが多い。
現在は文筆家で元京大卒ニートのphaさんの、みんなで集まってもくもくとプログラミングをする会が元祖ではないか。
私が10年以上前にイベント名に使用した際は、まだ使っている人は少なく、イベントの趣旨を理解してもらうために、phaさんのイベント名から拝借した。
現在はウィキペディアにも項目があるほど、一般的なイベントの形として定着している。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%81%8F%E3%82%82%E3%81%8F%E4%BC%9A_(%E9%9B%86%E4%BC%9A)
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