【思考の土台となっている情報源②】ちきりん著『マーケット感覚を身につけよう  これから何が売れるのか? わかる人になる5つの方法』

2023/11/10

図書館員の方に 本紹介

 

前回から引き続き、私が仕事や活動について考えるとき、思考の土台となっている情報源についてお話しています。

↓もう一度、読み直したい方はこちらよりどうぞ

私が仕事や活動について考えるとき、思考の拠りどころとなっている3つの情報源を紹介していくシリーズ。
2つ目は、ちきりんさんの本「マーケット感覚を身につけよう『これから何が売れるのか?』わかる人になる5つの方法」です。

ちきりん著(2015)「マーケット感覚を身につけよう『これから何が売れるのか?』わかる人になる5つの方法」ダイヤモンド社

版元ドットコムへのリンク

ちきりんさんとは?

大変有名な方なので今更説明不要かとは思うのですが、念のため。

ちきりんさんは、鋭い切り口やユニークな視点で社会問題についてのブログ記事を2005年から書き続けている社会派ブロガーです。

未だ顔出しはされておらず、ペンネームでの発信を続けておられ、謎めいた存在です。
匿名での発信にもかかわらず、Xのフォロワー数は38万9000人!(2023年11月現在)
また、ちきりんさんが「いいよ~」と紹介した商品は飛ぶように売れます。
現在はおすすめ商品紹介の専用ブログ「ちきりんセレクト」も運営されています。

著書も何冊も出版されており、その文章が入試問題に使われたり、本が大学の授業でテキストとしても利用されています。
全くちきりんさんの文章を読んだことがないという方も、こういうことから質の高さが推測できるのではないかと思います。

現在は、Voicyで音声配信もされています。
こちらもうならされるような内容で、私は多くの気づきを得ています。
ほぼ毎日配信されていた時期もあるのですが、毎回の配信の質が本当に高くて、「このひとの頭の中はどうなっているんだろう??ちきりんさんは3人くらいいらっしゃるのではないか?」と思ってしまいます。

この本に出てくる「マーケット感覚」って?

「マーケット感覚」とは、ロジカルシンキング(論理的思考)の対極となるような考え方です。
ちきりんさんは著書の中で商品やサービスが売買されている現場の、リアルな状況を想像できる能力と説明しています。

論理的思考ができ、かつ、マーケット感覚を持っていると、思考の幅を広げることができます。

なぜかというと、ひとはいつも論理的に物事を決めているわけではなく、「面白そう~」とか「みんなが持っているし」とか非論理的な理由からも行動するからです。

本の冒頭に、マーケット感覚を活用した興味深い例が登場します。
「マーケット感覚を働かせるとこんなことまで想像できます」という一例として、Zoomなどのテレビ会議ツールが、航空会社や新幹線などのライバル企業となりうる、という話がでてくるのです。
当時、ちきりんさんのこのユニークな発想に驚かされ、文章に引きこまれた読者も多かったのではないでしょうか。
コロナ前からこのことを予見していた本(この本の出版は2015年)として、現在、新たな読者も獲得しているようです。

この「マーケット感覚」というネーミングはちきりんさんによるもの。

しかし、この感覚を最初に発見し、命名したわけではないのだそうです。

Voicyでの放送によると(※1)アメリカ留学時代にウォールストリートの投資銀行でちきりんさんがインターンをしていた際に知った「ストリートスマート」というワードを、ちきりんさんなりに日本人に理解しやすいように「マーケット感覚」とネーミングした、とのこと。
「ストリートスマート」とは、道端で生きていて決して高い学歴はないけれど商売の勘があり、これからここでどういうものが流行るのかわかる嗅覚のような感覚のことなのだそうです。
この感覚があるひとは「今この企業が上向きだな」と思って買うと株が上がったり、「この辺りでベーグル屋を出すと流行るだろうな」、と予測して、実際に店を始めると儲かったりするのだとか。

この、「現場感覚からうまれる、商才のセンス」のようなものを、ちきりんさんは「マーケット感覚」と名付けました。

マーケティングの本だと思われている⁉

この本、ビジネスパーソン向けには非常に売れているのですが(※2)、教育関係や公務員、公的機関、規制業界など、安定した仕事に就いているひとには、あまり読まれていないように感じています。

  • 副題に「これから何が売れるのか」と書かれているため「私たちには関係ない」と思われているのではないか。
  • 「マーケット」というワードからマーケティングの本だと思われているのではないか。

そんな気がしています。

理由は私の住む街の公共図書館には、ほかのちきりんさんの本はあるのに、この本は所蔵されていないからです。

公共図書館には、自己啓発本はあっても「あれ、ビジネス書が少ないな?」と思ったことはありませんか。

あまりにも金儲け色が前面に押し出されている本(こうしたら儲かる!等、広い意味でのマーケティング関連本)は、その自治体の公共図書館の選書基準によっては購入しない場合もあるのです(もちろん、ジネス支援に力を入れている公共図書館もあって、そのようなところでは積極的に購入していると思います)。

おそらく、この本もタイトルのイメージや副題から、はじかれてしまったのではないかと思います。

他の自治体の公共図書館にも、この本が所蔵されていない可能性があります。

しかし、この本は図書館員も含めた公務員や学校関係者、インフラ産業など、安定した職業に就いているひとにこそ、ぜひ読んでもらいたいような内容が書かれています!

ちきりんさん本人がこの本を紹介したブログ記事(※3)にも、「マーケット感覚」は問題解決の手法の一つなので、ビジネスパーソンだけでなく、研究者や公務員、専業主婦などあらゆる人に必要な感覚だ、という旨の記載がありました。

ちょっとビジネスという視点から離れてみましょう。

公的機関で働くひとや子ども、専業主婦など、いわゆる「商売」に直接かかわっていないような立場のひと向けに「マーケット感覚」を説明すると、どのように言い換えられるでしょうか。

「世の中のさまざまな属性の人はどう思うだろうか?と、いろいろなひとの立場に立ち、そのひとの言葉になる前の気持ちを察して先読みするスキル」というのはどうでしょうか。

これなら、ビジネスパーソンでなくても必要だ、と思えてきませんか?

それまで「カン」や「センス」としかみなされていなかった感覚を「スキル」に格上げし、誰にでも分かるように解説してくれたことに感謝

私はもともと論理思考より「マーケット感覚」がわりと働くほうで、自分ではこの感覚のことを「地べたの感覚」とか「肌感覚」と呼んできました。

私はストレングスファインダーで「着想」や「未来志向」、「内省」といった資質を上位に持っており、自分のユニークな発想や着眼点のもとになっているのがこの「マーケット感覚」なのです。

しかし、図書館を含めこれまで仕事の場で、この感覚を使って導き出した意見を述べても、なかなか受け入れてもらえませんでした。

勉強や試験が得意な優等生タイプのひと、地に足がついた考え方をするタイプのひとは、もともと論理思考が得意です。
こういう方々には、自分の意見やアイデアを「ナイスアイデア」として、理解してもらえることは、経験上とても少なかったです。

ストレングスファインダーの「内省」と、「マーケット感覚」を駆使して考え抜いて出された結論なのに、「単なる思いつき」や「その場でのひらめき」とみなされてしまうのです。

ちきりんさんの研ぎ澄まされたとマーケット感覚には遠く及びませんが、「論理思考は鍛錬して身につけたものであって、幼いころからマーケット感覚はある程度持っていた」という点は、私とちきりんさんで共通しているところです。
ですが、ちきりんさんとは正反対の部分もあります。
私の場合、ストレングスファインダーで「調和性」や「共感性」という資質が上位にあるため、自分が少数派になったり孤立してまで、自分の意見やアイデアを伝えたい、という意欲がありません。

ブログを読んだり音声配信を聞いていると、ちきりんさんは「自分のアイデアや意見がひとと違っていることは価値がある」と考えてらっしゃることが分かります。

そして、自分が少数派になってしまったり、周りと意見が違っても孤独感を感じにくいようです(※4)。

私の場合、自分の発言によって孤立してしまうことはとてもつらいのです。

これは、私とちきりんさんが上位に持っている資質の違いなので、仕方がありません。

私は、ストレングスファインダーの「着想」を上位に持っているタイプとしては珍しいかもしれませんが、ひとより変わっていることやユニークな考えを持っていること、また変ってるねと言われることを誇りに思うことができません。

そのことで、仲間外れにされたり、考えていない(=思いつきでものを言っている)と思われた経験が、圧倒的に多かったからだと思います。

中学時代の女子の「グループ」から始まり、就職先も含めて同調圧力の強い環境ばかりだったので、孤立することはとても怖かったです。
自分の身を守るためには、できるだけ目立たず、出る杭にならない、ということが私なりの処世術でした。

今でも、自分のユニークさよりも、「議論にならずに周りのひととなじみたい。多くのひとに理解して受け入れてもらいたい」という思いが強くあります。

そんな私にとって、この本はお守りのような本です。

それは論理的思考と比較され、不安定で再現性のない、直感的なものと考えられてきた「マーケット感覚」を、論理的思考と並ぶ「スキル」に格上げし、誰にでも分かるように解説してくれたから本だからです。

この本のおかげで、「マーケット感覚」をカンやセンスだと思っているひとにも、「私のアイデアは単なる思いつきに見えるかもしれません。でも、この本に説明されている『マーケット感覚』というスキルを倫理思考にプラスして導き出されたものなんですよ」と、理解をうながすことができるようになりました。

この本が世の中にもっと普及することにより、「マーケット感覚」に基づいて出されたアイデアも、学校や職場などで通りやすくなるのではないか、と思っています。

今回の記事で、「こういう感覚があるんだ!」「これは生まれつきつき鋭い人もいるけれども、ないひともトレーニングで身につけられるスキルなんだ」と知ってもらえたら、うれしいです。

また、「マーケット感覚」を理解してくれるひとが増えることにより、同調圧力が強い日本社会において「着想」や「未来志向」といった資質を活かしきれずに私のように悩んできたひとたちが、自分の資質を肯定し、生きやすくなることにもつながるように思います。

ぜひ、一度本を手に取ってみてくださいね!

そして、公共図書館や学校図書館の司書のみなさま!
読んでみて「うちの図書館にこの本ないわ」と思ったら、ぜひ購入を検討願います。

<参考リンクなど>
※1
Voice of ちきりん #460 ★新刊記念★ 担当編集者がちきりんを直撃インタビュー!2022.1.14配信分より(https://voicy.jp/channel/1295/263863

※2
『マーケット感覚を身につけよう』は、多くのビジネスパーソンが絶賛し、単独でも11万部を超えるベストセラーになっています。
https://diamond.jp/articles/-/299513

※3
「Chikirinの日記」より
https://chikirin.hatenablog.com/entry/20150216

※4
ちきりん著(2022)「自分の意見で生きていこう『正解のない問題』に答えを出せる4つのステップ」ダイヤモンド社 より

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