先日、トークイベント「なんでわざわざ司書・本屋をやるの?」にご参加いただいた方(仮:Aさん)から、メッセージをいただきました。
司書の知識をもった本屋さんになりたいけれど……
図書館をよく利用していますが、最近、将来、本屋さんをやってみたい、という夢を持つようになりました。
司書としての知識を持って本屋さんをやってみたいと考え、司書資格の勉強をしようかなと思っています。
でも、図書館で働く予定ではないのに、司書の勉強をすることに意味はあるのか、迷いがあります。
また、司書の資格取得の勉強は甘くはないだろう、ということも感じていて、でも、それでも勉強することは無意味ではないはず……、とも思い、司書資格の勉強をするべきか、迷いが続いています。
(いただいたメッセージを一部変更しています)
こちらについて、私なりの考えなどをお伝えしてみたいと思い今回の記事を書きました。
本屋さんは資格がなくても始められる
会社員や公務員など、組織に所属して働いていると「勉強する時間が作れるのであれば、とりあえず今後の何かに役立ちそうな資格を取っておこう(勉強をしておこう)」と考えるひとは多いと思います。
メッセージをくださったAさんは、もしかしたらこのようには考えておられないかもしれないのですが、勤め人から自営業(フリーランス)にシフトしようと思っている多くの方のために、いったんこのまま話をすすめていきたいと思います。
実は私自身が、まさにそういう考えだったからです(笑)。
しかし、自分がフリーランスになってみた後、自営業の方や組織に頼らず働いている方の考え方は、全く違っていることに気がつきました。
では、資格取得やその勉強について、どのような考え方をしているかというと、自営業の方や中小企業の経営者の方などは、以下のように考えておられることが多いです。
パターン1)自分がやりたい事業をおこなうには資格取得が不可欠な場合は、取得(勉強)する
食品衛生管理者の資格や美容師免許、医師免許など、資格や免許を取得しない限り、開業や営業ができない場合がこれに当てはまります。
パターン2)その資格をとることにより、自分のサービスの単価UPが見込める場合は、取得(勉強)する
現在ヨガのインストラクターをしているとします。
上級のヨガ資格を取得することにより、レッスン料をより高く設定できる、という場合がこれに当てはまります。
また、相談業などの場合、コーチングやカウンセリングなど自分のサービスに関連する資格をとることで、自分のサービスの質の高さを保証できるようになる、という場合もこれに当てはまります。
ではここで、Aさんの希望を改めて考えてみましょう。
Aさんは書店員として本屋さんに勤めたいのではなく、本屋さんを開きたい、つまり「本屋を開業したい」と考えていらっしゃいます。
となると、会社員や公務員の考え方から、自営業や経営者のマインドにシフトしていくことが大切になってくるかと思います。
本屋さんをいつか開きたいと思っているAさんが、開業前に司書の資格をとったりその勉強をする、という選択は、自営業や経営者の方だったら行うことなのでしょうか?
まず、パターン1ですが、本屋さんの開業は新刊書店の場合は資格はいらないはずです(古本を扱う場合は古物商許可の申請が必要ですが、勉強して取るタイプの資格ではなく警察署に申請すれば済みます)。
そして、パターン2です。
本の販売価格は流通している本(≒出版社から出ている本)については価格が決まっており、本屋の店主の経験やスキルの有無で提供価格を変えることができません。
つまり、お金や時間をかけて司書資格を取得しても、それにかかったコストは事業で回収することができないのです。
Aさんが書店激戦区への開業を予定しており、他店との何かしらの差別化が必要という場合は司書資格の有無が優位にはたらくこともないとはいいきれませんが、そういうケースはあまりなさそうですし、例えそういった場所に開業したとしても、店主の司書資格の有無でお客さんが通う本屋を選ぶことはないのではないか、と思います。
おそらく、品揃えとか接客とか営業時間などで決めるんじゃないか、と思うのです。
こういったことから、自営業や経営者の方などであれば、本屋を開くのには司書資格取得や司書の勉強は不要と判断し、そのためにかかるお金や時間を、「一日でも早く本屋を開くため」に投資するのではないか、と思います。
これはあくまで、書店として開業し、生活の糧を得ていくことを考えた場合なので、Aさんの考えておられる本屋さんのスタイルやイメージとは違っているかもしれません。
しかし、どんなスタイルで本屋さんを始めるにしても、私も自営業や経営者の方などと同じように、一日でも早く「本を売る経験」をされることをおすすめします。
他人からみたら「本屋さんごっこ」のように見えるかもしれませんが、気にしなくて大丈夫です!
ヌリタシさんもトークイベントでおっしゃっていましたが、お客さんと接して本を売る、という体験や経験をしないとわからないこと、気づかないことは多いのではないか、と私も考えているためです。
今の時代、店舗を構えなくても、さまざまな形で本を売る経験ができます。
イベントやマルシェへの出店もそうですし、ボックス単位で貸出している無人の本の販売所(奈良にも京都にもあります)に本を置かせてもらってみる、古本でよければ全国各地で行われている「一箱古本市」に出店してみる、ネットで販売してみる、というようにパッと思いつくだけでもいくつもありますので、まず販売する体験をしてみるのがよいのではないか、と思います。
もし、店舗を構えずに本の活動をしているひとのインタビューやエピソードを知りたい!と思うのでしたら、こんな本も最近出たようです。
奈良県大和郡山市の書店「とほん」さんのメールマガジン「とほんニュースレター」で知りました。
「本屋にまつわる本はたくさん発行されていますが、実店舗のある本屋がとりあげられることがほとんど。私が昨年『オンラインで本を売っていこう!』と思った時に参考になる本がなかったことがこの本を作りたいと思ったきっかけです」(紹介文より)
それでもやっぱり司書の勉強がしてみたい
「そういう理屈はわかっているんだけど、それでも司書の世界に興味がある」
「やっぱり、司書の勉強をしてみたい」
そういうふうに思っていただけるようでしたら、やはり司書としてはうれしいですし、別の提案をさせていただきます。
司書の資格をとるのにいくらかかり、何科目あるのか、といったことはAさんはすでに調べておられるかと思いますが、司書の資格は一般的には大学で文部科学省令において定められた「図書館に関する科目を履修したこと」を証明するような形のものなので、免許証などがあるわけでもなく、また、勉強する内容は1科目だけではありません(科目名も変更があり、私が取得したころよりも科目数が増えているかもしれないので、ご自身でお調べいただけたらと思います)。
また、図書館員として働く場合、実務上は必要となる知識であっても、Aさんのように「図書館で働くわけではなく、司書の知識を活用しながら本屋さんをする」、という場合、必要ないような知識も多いのではないかと思います。
司書資格の取得を目指して勉強をしていたら、本屋さんを開くのはずっと先になってしまうかもしれません。
そこで、司書資格取得を目的とするのではなく、日本図書館協会の出版している図書館情報学テキストから、気になる科目の本だけを読んでみる、というのはいかがでしょうか。
もし、最初に読むなら、「図書館サービス概論」「図書館概論」「児童サービス論」などがいいのではないでしょうか。
現在品切れの分もあるようですが、ほとんどの図書館には置いてあるのではないかと思います。
古本も含めお探しいただけたらと思います。
その分野を学ぶために、書店に売られている本で独学するのではなく、資格取得そのものを目指す、という方法があると思うのですが(日商簿記など)、司書の場合、その方法はおすすめできない、というのが私の経験上の本音です。
私は通信制大学で司書に必要な科目の単位を取得(=司書資格を取得)したのですが、実は科目ごとのテキストのわかりやすさには、かなりばらつきがありました(汗)。
正直なところ、放送大学で単位を取得した経験やユーキャンなどの通信教育で学んだことのある方にとっては、信じられないくらい分かりづらいテキストもありました(途中で離脱するひとも多いのではないでしょうか)。
私自身、通信制大学での司書の勉強の際、理解の進まない科目については、大学のテキストだけでなく、結局、JLA(日本図書館協会)の同じ科目のテキストも購入し、併用してテスト対策をした覚えがあります。
もしかしたら、対面授業やオンライン授業のある司書講習であれば、今はもっと分かりやすい内容のものがあるのかもしれません。
ですが、もしAさんが通信制大学(スクーリングが数回しかなく、講義の動画視聴もなくテキストのみで学んで単位を取るタイプ)で、これから司書資格を取得しようと考えておられるのであれば、司書資格をとることを目的にするのではなく、気になる科目のJLAテキストを読む方法の方をおすすめしたいと思います。
(でも、最終的に判断するのはAさんですので、「それでも司書の資格を取りたい!」と思われたら、チャレンジしてみてくださいね)
トークイベントの内容が気になった方はこちら
Aさんがご覧になったイベント「なんでわざわざ司書・本屋をやるの?」は、5/31(土)までアーカイブ配信をおこなっています。
アーカイブ配信チケット:700円
この記事をお読みいただき、ちょっと聞いてみたいなあと思った方、下記(会場となった書店ヌリタシさんのオンラインストア)にて販売中です。
https://nuritashi.stores.jp/items/67f487146dd9a96cb5347d20
ご視聴のまでの流れ
ご購入後、24時間以内に視聴用のURLをメールアドレスにお送りいたします。
⚠️購入・視聴期限ともに、今月末(2025.5.31)まで。
アーカイブ配信についてのお問い合わせ先
実験する本屋 ヌリタシさま
・Instagram
@nuri_tashi DMにてお問い合わせください。
・メール
nuritashi55(A)gmail.com
※メール送信時は「(A)」を「@」にご変更ください。
さいごに
図書館員になりたい方や司書の勉強を始めたいけど迷いがある方、司書の労働環境ってあまりよくないと聞くけど大学で司書資格をとってそのまま司書を目指していいのかな……と迷いがある方。
こういった方のご質問や相談にお答えするサービスも、いつか開始できたらと思っています。
このような活動をすることにより、介護や子育て、配偶者の転勤への付き添いのためなどのさまざまな理由で、図書館を退職せざるおえなかった図書館員(司書)の活躍の場が増えるのではないか、と考えているためです。
司書の活躍の場を図書館以外にも増やすことで、司書のスキルを社会に開いていく活動を行なっています↓
司書の可能性研究所
マイペースでやっているので歩みが遅いのですが、サービスの開始やモニター募集を始めたら、インスタかこちらのブログでお知らせいたしますので、チェックしてみていただけるとうれしいです。
Aさんが新たな一歩を踏み出され、どこかのイベントでご一緒できる日がくることを、楽しみにしています!
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