自分の内側から出てくる興味だけに従って探していると、マンネリ化してしまう
「マニア」や「オタク」、「○○ジャンキー」と呼ばれるような、趣味の時間を大切にするひとの中には二つのタイプがいるように思います。
一つが、ある分野についてずっと興味を持ち続け、狭い分野を深く極めていくタイプ。
もう一つが、一つの対象にじっくり深く向き合うというよりも、広く浅く興味が拡散していくタイプです。
みなさんはどちらのタイプにあてはまるでしょうか(いや、どちらにもあてはまらなくてもいいのですが)。
私は、後者の「拡散タイプ」です。
そのため、自分の好きな分野についてなかなか専門性を高めることができず、長年悩んでいました。
あるジャンルについてだいだい知ってしまうと、興味が他へと移ってしまうのです。
マニアなのに飽きっぽい、という性格です。
私はアメリカの「ブルース」という音楽や、近年「シティーポップ」という名称で海外から注目が集まっているような、60年代~70年代の日本のポップスが好きです。
おそらく、音楽ライターなどになるには、何か特定ジャンルに詳しいことが大事なのだと思うのですが、どちらのジャンルもレコードを買いあさって極めることはできませんでした。
本についても同様。
全作品を読破した作家さんはいません。
一つ一つの知識は浅くてもいいので、いかに幅広いことに興味が持てるか。
雑学的に幅広い知識があるか。
こういうことが求められる、公共図書館での仕事は私にとって適職だったと思います。
このような傾向から、私はある分野を深めたい(よりマニアックに専門性を高めたい)ひと対して何かを働きかけることよりも、新しい知的好奇心のタネとなるような事柄にひとをナビゲートしていくことが自分の役割なのかな、と思っています。
どんなひとでも、自分の内側から出てくる興味や好奇心だけに頼っていると、やはり限界がくるように思います。
遅かれ早かれ特定の分野に偏ってしまい、マンネリを感じるようになる、ということです。
例えば、ある作家Aさんに夢中になり、そのひとの作品を全部読んでしまった。
次、どうしたらいいだろうか。
自力で探してみるけれども、よさそうだなと思った作家さんの作風が、どこかAさんっぽい。もうちょっと違う感じで、でも面白い作家を知りたいんだけど、どうしたらいいのかな……う~ん。
こんな経験はないでしょうか。
まれに南方熊楠のような方もいらっしゃいますが、自分の内側から出るパッションとか興味関心に従ってその時の直感で選ぶ、という方法でやっていると、いずれはこういう壁に当たるのではないかと思います。
そこで今回は、新年度を迎えて「今年は新しい作家さんを知りたいな~」という方やGWに読む本をお探しの方に向けて、おそらく、古い(?)読書好きにはよく知られているWebコンテンツ「作家の読書道」についてご紹介いたします。
Webコンテンツ「作家の読書道」とは
ある作家の作品に感動したり、こころを揺さぶられたとき、私にはいつも思い浮かぶ疑問があります。
それは、「こんなすごい作品を生み出すひとって、これまでいったいどんな本を読んできたのだろう??」。
この素朴な疑問を、日本人の作家や歌人、エッセイストなど文学系のクリエイターにぶつけてインタビューしてきたのが、「WEB本の雑誌」の名物企画「作家の読書道」です。
これまで、インタビューされてきた作家さんたちは260人以上。
無料で読めるのが信じられないくらい、充実したコンテンツとなっています。
私が知ったのは2004年ごろなので、20年近くチェックしていることになります。
インタビューの進め方に形式があるわけではないのでばらつきはありますが、ほとんどのインタビューは「読書や本に興味を持ったきっかけ」からスタート。
幼児期に読んでいた絵本から始まり、小学生から思春期、そして作家デビュー前後までに読んできた本について訊ねていく流れとなっています。
身体が食べてきたものでできているのだとしたら、作家は「読んできたものでできている⁈」
以前、ある食品会社の「あなたの身体はあなたの食べたもので出来ている」というキャッチコピーが流行しました。
私たちは好きな作家さんがこれまでどんな本を読んできたのか知りたい!と、シンプルに考えます。
しかし、それは作家側とっては、ネタ元を開示することにもなる恐れがあります。
「どんな読書遍歴を経てきたか」という情報は、自身の作品のオリジナリティを守るために企業秘密にしておきたい情報だと思うのです。
自分の立場に置き換えると気軽にしゃべれるものではありません。
多くの作家さんがこんなにも気さくに、読んできた本の話をしてくれているのは、このサイトの運営元である書評雑誌『本の雑誌』への厚い信頼があるからだと感じます。
インタビュアーの技術がすごい
書評雑誌『本の雑誌』については、以下をご覧になっていただくこととし、
https://www.webdoku.jp/about/company.html
この記事では「作家の読書道」に絞って話を進めていきますね。
やはり、自分の作品のオリジナリティの元ともなっている読書体験について、作家自身がこんなにも詳しく語ってくれているのは、WEB本の雑誌のインタビュアーが素晴らしいからだと思います。
それは話を引き出す力もそうですし、本への深い知識やその幅広さには毎回驚かされます。
私は小説などの文学系はもともとあまり強くないのもあって、無知をさらすことになりますが、一例をあげますと、津村記久子さんの回(https://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi155_tsumura)に登場する海外文学作品はほとんど知りませんでした。
こういうインタビューを成立させられるひとって、いったいどれだけの本を知っているのでしょうか。
到底かなわないプロの仕事、という感じがします。
当然インタビューする側としては、本のタイトルすら知らないようだとそこで会話の流れが止まるでじょうし、そうでなくても浅い内容になるでしょう(音楽の知識が乏しいパーソナリティのラジオ番組に、アーティストがゲスト出演した際、よくこういう残念なインタビューがおこなわれ、電波に乗っています)。
インタビューの質、という意味ではとてもレベルの高いweb記事だと思います。
印象に残っている「作家の読書道」記事はこれ
ではここで、私がこれまで読んできた「作家の読書道」コンテンツの中から印象に残っている回をご紹介します。
三人ご紹介しようと思ったのですが、すごい長文になってしまったので(笑)、お一人だけに絞ることにしました。
紹介するのは三浦しをんさん。
小説だけでなく、エッセイでも活躍している作家さんです。
本、それも文学という分野が面白いなあと思うのは、かなり昔の作家さんが書かれたものも、最近の作品と並存しているところです。
自分の祖父母の時代に書かれたようなものも、最近書かれたものと同じように読まれているように感じます。
また、日本や海外の古典と呼ばれる文学を読みながら、並行して最近出たミステリーやエンタメ小説を読んでいる、という読者もいらっしゃると思います。
私の場合、大人向けの小説を読み始めた中学生くらいのころ、ティーンエイジャーに人気のあった作家さんの文章が、自分の好みと正反対だったため、新しく出た小説にはあまり興味を持てませんでした。
自分が生まれたころに発表された作品を読むことが多かったです。
リアルタイムで発売された、ほぼ同年代の作家が書いた小説を読むようになったのは遅く、初めて新作をわくわく待った作家さんが三浦しをんさんでした。
コンプリートはしていないものの、自称「拡散タイプのマニア」の私も、彼女の作品はだいたい読んでいます。
三浦さんのデビュー作は、自身の就職活動を元にした小説『格闘する者に〇』。
同年代というには少し年齢が離れているのですが、自分がもし大学卒業直後にこんなレベルで文章が書けるかというと、どれほどの努力をしても無理だろう、と感じたことを覚えています。。
20代前半とは思えない、練れた文章に圧倒されました。
そして、三浦さんに興味をもってエッセイなどを読むうちに、大変な読書家だということを知ります。
文学と呼ばれるものだけではなく、漫画やBL小説など、硬軟関係なくさまざまなものを読んでらっしゃることも分かりました。
三浦さんの実年齢とはアンバランスとも思えるほどの文章力は、多読に裏打ちされたものだったのです。
「作家の読書道」インタビューの話へと移りますと、インタビューのタイミングは本屋大賞や直木賞受賞前です。
「作家の読書道」のインタビューでは、児童文学の名作で何度も復刊されている『光車よ、まわれ!』、幻想文学作家の中井英夫著『虚無への供物』など、三浦さんのこのインタビューを読んでいなければ私の読書傾向ではなかなか出会うことがなかったような作品が多く紹介されており、三浦さんの後ろを追いかけるように、このインタビューで紹介されている本を読んだ覚えがあります。
特にここで、丸山健二さんを知ることができたことは大きかったです。
私は現在、長野県に住んでいますが、丸山さんは長野出身、安曇野在住の郷土作家でありながら、図書館員でもその存在を知らないひとが多くいらっしゃいます。
いわゆる文壇から離れ、孤高を保ちインディペンデントに活動をしてきた方なので、それも関係しているのかもしれません。
三浦さんは丸山さんのファンとのこと。
インタビューではサイン本をいただいたことをうれしそうに話してらっしゃいます。
三浦さんは特に読書量の多い作家さんだとは思いますが、書くことをなりわいとするひとの読み手としての一面が見られるのも、「作家の読書道」の魅力です。
作家の読書道 活用法
お子さんの本選びに迷っている方へ
作家さんが幼少期に読んでいた本から本選びのヒントが得られるかもしれません。
いわゆる、誰が聞いても知っているような名作ばかりではないところが面白いなと思います。
これから新社会人になるひと、転職などキャリアチェンジを考えているひとへ
人生の分岐点(特に大学生→社会人)に立っているひとにとって、作家さんがその時期に読んでいた本は参考になるのではないか、と思います。
読む本、自分が選ぶ本がマンネリ化してしまっているひとへ
これまで知らなかった作家さんを知るきっかけにもなるサイトです。
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読書好きにとってはよく知られているサイトなのかなと思っていたところ、若い方の中にはご存じないひともいるようだったので、紹介させていただきました。
今は「読書の秋」ではないのですが、花粉症で外出が辛くて……という方、お家で読書もいいですよ。
ぜひご覧になってみてください。