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UnsplashのNick Fewingsが撮影した写真 |
今回は「図書館の求人の探し方」についての記事を執筆中に思い出した、あるウェブサイトについてご紹介することにしました。
といっても、もう既に更新が止まっているサイトなのですが、このサイトが果たしてきた役割について、改めて自分なりに振り返ってみたいと思いました。
伝説の図書館求人まとめサイト「われわれの館」
現在、図書館員を目指している皆さんは「われわれの館」というウェブサイトをご存じでしょうか?
2013年まで存在していたサイトで、全国の図書館員の求人情報を正規・非正規(パート、契約社員、派遣社員など)に関わらず、ほぼ網羅して紹介していました。
現在は更新されていませんが、アーカイブとして閉鎖時のまま残されています。
大変な情報量で、このサイトを活用して就活をされていた方は多かったのではないか、と思います。
図書館員の求人についてはこのサイトを中心にチェックし、他はいくつかの個々のサイトを補足的にみれば分かる、というほどでした。
このサイト、個人の方がなんと無償(非営利)で行なっておられたのです。
今では考えられませんが……。
というのも、求人情報や転職系の情報発信はアフェリエイトの案件の代表であり(※1)、今は紹介側に何らかの利益がないと無償で情報提供するひとはほとんどおられないのではないか、と思うからです。
でも、1990年代~2000年代ごろは、個人が使命感やボランティア精神から、有益な情報提供を行っているブログやサイトがまだまだ多くありました。
「われわれの館」はそういった、信用できる貴重な情報源の一つだったのです。
私自身は、司書資格の取得を検討した際に活用しました(取得後、資格を活かして就職できる業界なのか、見極めるため)。
私が正規採用の図書館職員を目指して就活していたころには、すでにこのサイトは更新を終了していました。
そのため、全国の自治体や大学などのサイトを大量にブックマークし、数日おきに巡回して求人情報をチェックしていたのです。
この時間を試験勉強にあてられたら……、と悔しい思いをしながらポチポチやっていたことを思い出します。
「われわれの館」が果たしていた役割
私のように、仕事をしながらアフターファイブ(←古い?)に転職準備をしていた者にとって、このサイトが大きな役割を果たしていたことは言うまでもありません。
しかし、今回、改めて下記のカレントアウェアネスの記事を読み、このサイトの果たしていた役割はもっと大きいものであったことに気づかされました。
E1503 – われわれの館~図書館司書就職支援の館~管理人インタビュー
https://current.ndl.go.jp/e1503
図書館員の7割が正規雇用⁈
先日、図書館関係の記事をネットで探していた際に、気になる記事を見つけました。
【図書館員の働き方】約3割が図書館の設備や機能に不満があると回答!図書館員の不満が明らかに…!(2024.9.26 sited)
図書館員を対象に調査が行われているのですが、その対象には、公共図書館や学校図書館(=小中校の図書館のこと)は含まれず、大学図書館に限定されています。
にもかかわらず、「図書館員の約7割が正規雇用、およそ3割が非正規雇用であることが明らかになりました」という、誤解を招くような記載がなされています。
図書館の業界のことを全く知らないひとがこの記事を読んだら「図書館員の多くが正規雇用である」という印象を受けるのではないでしょうか?
実際には、ほとんどの図書館では非正規雇用職員が業務を支えている、というのが私の実感です。
参考記事:E2570 –
博物館・公民館と課題共有:非正規雇用職員セミナー<報告>
https://current.ndl.go.jp/e2570
大学図書館については触れられていないので、あくまで参考に。
では、なぜこのような調査結果が出たのでしょうか。
私なりに考えてみたのが、以下の状況です。
このような、図書館の内情を回答するアンケートへの協力依頼は、その図書館の事務職のトップ(管理職)宛に届き、トップの判断で正規職員のみにアンケート協力依頼をする、というケースがあります。
他の業界では考えられないかもしれませんが、ほとんど同内容の仕事をしていたとしても、正規職員以外は図書館の内情について語る立場にない、という考え方が図書館の中では当たり前に存在しています(※2)。
非正規の職員に、図書館にとって都合の悪いことを回答されては困る、という意図も感じられます。
例えて言うと、「コンビニエンスストアの実態に関するアンケート」について、店長やオーナーだけに回答する権利があり、実際に現場に長時間立っているパートやアルバイトにはアンケート依頼があったこと事態も知らせなかったり、告知はしても「回答は店長とオーナーのみ」と限定したりする、というような状況です。
つまり、アンケートを依頼した企業は意図していなかったかもしれないのですが、図書館の中には、正規雇用の職員にしかアンケートの存在を知らせなかった組織があった。
そのため、結果として、回答者に正規雇用者が多くなった。
もしそうであれば、実際の図書館員の正規・非正規の割合を「回答者の割合」から求めることは誤りです。
また、多くの図書館員は、もし正規雇用・非正規雇用の割合について調査するのであれば、だいたいこの辺りをみれば分かるかな、と見当がつく情報源がありますので、ネットのこの調査記事は流し読みするのではないか、と思います。
ですが、一般の方であれば、この記事を鵜吞みにしてしまうのではないでしょうか。
仕事で図書館に関する正確なデータが必要で、ガチで調査しているひとならたどり着けるかもしれませんが、ネットで簡単な情報検索をしているときに、こういうデータに当たったら、「こういう傾向があるのだな」と信じてしまうのでは、と感じます。
こんなとき、もし「われわれの館」が存続していたら……。
一般の方も、年間通しての求人情報全体での正規・非正規の募集割合をみれば「あれ、このアンケート結果、おかしくない?」とすぐに気がついたと思うのです。
先ほど紹介した管理人のインタビューにおいても、「2012年度は年間約4,000件の求人を掲載しましたが,そのうち正規職員は60件にも満たず非常に狭き門でした。」と掲載されています。
確かに、10年以上前のデータではありますが、この差が現在逆転して、正規職員が過半数を超えているとは考えにくいと思うのです。
「われわれの館」は一般人が図書館業界を知ることができる窓だった
おそらく「われわれの館」の閉鎖について、すでに職を得た現役の正規雇用の図書館員は困っていないでしょう。
しかし、図書館関係者以外の一般の方々が、図書館の生の情報に触れる機会が損なわれてしまったように思います。
これでは、図書館員の多くが、身に着けているスキルのわりに低賃金で労働していたり、期限付きの非正規雇用の問題にさらされていることについて、民間人が知る機会がほとんどありません。
<さきほど紹介したリンクの再掲です>
E2570 – 博物館・公民館と課題共有:非正規雇用職員セミナー<報告>
https://current.ndl.go.jp/e2570
これは図書館に限らず、多くの閉鎖的な業界にも当てはまることかもしれません。
業界の問題が業界内の閉じたところだけで議論されていて、業界の外に出ないのです。
一般の方の場合、よほど図書館に興味があり、「カレントアウェアネス」や図書館の専門誌などを読んでいない限りは、図書館で働くひとたちの状況を詳しく知る機会はありません。
また、正規雇用の立場にある職員は既得権益を守るため、図書館の非正規雇用問題について話題にすることやその実態を知ることについて消極的です。
知ってしまうと、かかわらざるおえなくなるためです。
そのため、この問題は、図書館大会などでは取り上げられてはいるものの(※3)、図書館の運営や経営側が時間とエネルギーをかけて本気で解決策を探るといったことがされないまま、今日まで来てしまったように思います。
そんな環境下において、現役の図書館員が求人情報のまとめサイトを作ることにより、ご本人の立場を危うくすることなく、図らずも図書館業界以外の人たちに「図書館のリアル」を伝えていた「われわれの館」は、貴重な存在だったのではないか、と感じます。
図書館を辞め、組織を離れないと言えないことが、この業界には多すぎるように思います。
そして、図書館の抱えている問題の多くは、構造的な問題を含んでいます。
そのため、図書館の問題は、他の閉鎖的な業界が抱えている問題とも共通しているのではないか、と私は思うのです。
NHKの「視点・論点」や「クローズアップ現代」で図書館の非正規雇用の実態や非正規公務員の問題について、図書館関係者以外が短時間で理解できるように、誰かさくっと解説してくれないかな~、と願いつつ、今回の記事を締めさせてもらいたいと思います。
<参考サイト>
※1【単価別】アフィリエイトジャンル17選!決まらないときの決め方も解説https://www.xserver.ne.jp/blog/how-to-choose-affiliate-genre/
(2024.8.24
sited)この記事にも「転職」が単価10,000円~20,000円のジャンルとして紹介されています。
※2 E2570 – 博物館・公民館と課題共有:非正規雇用職員セミナー<報告>
https://current.ndl.go.jp/e2570
この記事にも「JLAの『日本の図書館 統計と名簿』によると,公共図書館の非正規雇用職員は7割以上で,正規職員より司書有資格者率が高い」「外部からの圧力で正規職員が図書室の一部の本を閉架にした際,非正規雇用職員の立場から反対できなかった経験から,学習権の保障のためにも正規職員と対等に話せることの重要性が語られた」との掲載があり、非正規職員に専門的な知識が不足しているわけではないのにもかかわらず、業務上、明らかに格差がある実態が語られています。
※3 第110回全国図書館大会長崎大会 第14分科会 非正規雇用職員
テーマ:「学校図書館で働く非正規雇用職員」
https://www.110th-library.com/about/14th-subcommittee
図書館大会はさまざまな館種の図書館関係者などが集い、研究や討議を行う、研究者でいうところの「学会」のようなものです。
全国大会のほか、県大会もあり、私も現役の図書館員の時は何度か参加しました。
「公共図書館」「学校図書館」「災害と図書館」など、さまざまな分科会に分かれており、その中に「非正規雇用職員」という分科会もあります。
上記記事には「日本図書館協会非正規雇用職員に関する委員会では、昨年度全国の自治体や個人に対象にした『学校図書館職員に関する実態調査』を実施した。この調査により多くの職員が雇用止め、低賃金、短時間勤務、複数校兼任など様々な問題を抱えていることが明らかになった。調査の報告を基に学校司書の現状と山積する問題点を捉え、今後の改善のあり方を考えて行きたい。」とありました。
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