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オフィスキャンプ東吉野にて撮影 |
日本人に不足している栄養素とは
先日、テレビ欄をみていたら、興味深いタイトルの番組を見つけました。
「骨の“新健康術”98%の人が不足している栄養素とは」
カルシウムが日本人に不足していること(※1)をご存じの方は多いと思います。
ですが、この番組で問題視していた栄養素は、カルシウムではありませんでした。
それは、ビタミンD。
ビタミンDは丈夫な骨を作るために不可欠な栄養素で、不足すると骨折のリスクが大幅に上がるといわれています。
もし、食品からビタミンDを摂取しようと考えた場合、豊富に含まれている食品は干ししいたけやしらすなどです。
これはどれも和食で使われる食材です。
つまり、日本人が和食を食べる機会が減り、それにより摂取量が減ったことが、ビタミンD不足の一因だと考えられているわけです。
実は、和食離れという食生活の変化以外にも原因があるのです。
それは、日光浴不足!
「ビタミンDが豊富に含まれる食材が干ししいたけやしらすである」と聞いて、カンのいい方はピンときたかもしれません。干ししいたけもしらすも、天日干しされた食材ですもんね。
ビタミンDという栄養素は、日光や紫外線を浴びることで作られる、特殊なビタミンなのです。
私たち人間も、干ししいたけやしらすのように、日光にあたることで体内にせっせとビタミンDを作っています。
日焼け止めを塗って外出する方は多いと思いますが、日焼け止めを塗ることで、ビタミンDの生成量も減ってしまうのだとか。
紫外線を浴びることによって皮膚がんのリスクが高まったりシミができることが心配で、なるべく日差しを避けるように暮らしているひとは多いのではないか、と思います。
私もその一人です。
そのうえ、日本には「色の白いは七難隠す」ということわざがあるように、とりわけ女性の美の基準として色白が長くもてはやされた文化があります。
こういった理由から、「どんどん日光を浴びましょう」という考えを現代の日本で広めるのはかなり難しいだろうな、と思います。
日本のオフィスに足りないもの
そんな中、一つの解決策として、私はオフィスに窓を作ることを提案したいと思います。
みなさんが毎日通勤する仕事場には、窓はありますか?
私が現在働いている職場には、オフィスに窓がありません。念のため言いますが、これは今の職場を非難しているわけではありません。
日本ではオフィスや事務作業の部屋に窓がないことは、とりたてて珍しいことではないからです。
振り返ってみると私の場合、新卒で入った会社のオフィスには、かろうじて窓がありました。
しかし、PCのディスプレイへの映り込みを防ぐためか、ほとんどの窓のブラインドが下ろされていました。
初めて社会人になったときのオフィスの第一印象は「暗い」。
昼間なのに日がさえぎられた薄暗い空間の中で大勢が一心不乱にパソコンに向かっている光景は、なんだか異様なものとして新社会人の目に映りました。
こんな暗い箱のようなところに毎朝通って人生の大半を過ごすのか……と思うと、自分に会社員が勤まるのだろうか、と不安になったことを覚えています。
私は都内ながら自然豊かなキャンパスに4年間通っていたので、特にそう感じたのかもしれません。
今ではオフィスのうす暗さにも慣れ、座りやすい椅子と高さのあったデスクとパソコンがあれば十分、というジャパニーズビジネスパーソンになりましたが……。
そんな自分に対し「本当にそれでよいのか?」と、問いかけてくる本がありました。
人は環境が整っていてこそ、力を発揮できる
西村栄基さんが書かれた『ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密』(すばる舎, 2024)です。
著者の西村さんは、ドイツでの駐在員経験を元に、ドイツ人の働き方から得られた学びを日本の職場に取り入れる活動を行っています。
西村さんがドイツに赴任した際、最初にオフィスに入って驚かされたのは、個人のデスクが広々としていて大きな空間が確保されていたことだったのだそう。
隣席との間はパーテーションで区切るのではなく、2メートル以上開けることでプライバシーを確保。
オフィス内にふんだんに観葉植物が置かれているだけでなく、窓の外にも美しい自然が広がっていました。
「この環境があるからこそ、良いパフォーマンスを発揮できるんだよね」という、西村氏の同僚ステファンの言葉通り、ドイツでは「人は環境が整っていてこそ、力を発揮できる」という考えが根底にあるのです。
実は西村氏も、窓が全くない日本のオフィスで働いた経験をお持ちです。
もともと工場だったところを無理やりオフィスに作り替えたため、こういう環境だったのだそうです。
しかし、ドイツでの駐在経験を経た今振り返ると、「あの環境こそが非効率を生んでいた原因だと思う」と本書では指摘しています。
会社側にとっては、一時的にオフィスの改修費用を節約できたのかもしれませんが、長い目で見ると生産性という点で、大きな損失を被っていた、と思えます(本書p.32より引用)。
日本の場合、コロナ前に比べてリモートワークが普及したとはいえ、会社員は人生のほとんどをオフィスで過ごします。
そのオフィスに、日が差し込み、緑の見える窓があれば、仕事によるストレスは大きく軽減され、仕事で思いつくアイデアも、より広がりを見せるでしょう。つまり、仕事の生産性が上がるということです。
そのうえ、オフィスにいるだけで日本人が不足している「ビタミンD」を補うこともできるのです!
まずはオフィスに窓をつくることから
日本のオフィスに窓を作りませんか。
本書によると、ドイツでは労働法で定められており、窓のないオフィスなどそもそも作れないのだそうです。仮に窓のないオフィスがあったとしても、退職者が続出するだろう、というようなことも書かれていました。
また、板硝子協会建築環境WGというワーキンググループが、九州大学大学院人間環境学研究院 都市・ 建築学部門の古賀 靖子博士の監修の元、窓の魅力に関してまとめた資料があり(※2)、こちらのデータも参考になります。
この資料によると、教育施設については、自然光と学習に対する集中力やストレスの度合い、出欠席率の関連性について、海外で数多く調査されているのだそうです。
例えば、ある調査によると、自然光を取り入れた教室の学生では、窓がない教室の学生よりも、疲労の減少や出席率の増加が見られるようになったとのこと。
窓の有無、つまり自然光を取り入れられるかどうかは、集中力やストレスに大きく影響するということが、調査からはっきりわかっている、ということです。
また、「集中力やストレスに大きく影響する」ということは、仕事の生産性への影響も大きいといえます。
私たちが仕事を続ける期間は、私たちの親世代に比べて延びています。
今後の生産年齢人口の減少を考えると、定年は70歳まで引き上げられるのではないか……と思います。
私たちは機械ではなく、人間です。長時間働けば、疲れもたまってきます。
若い時は若さや気合、長時間労働でなんとかできたことも、50代を超えると難しくなります。
長年の疲れが蓄積した状態で、画期的なアイデアを生み出したり、仕事の生産性をあげることは難しいでしょう。
それでも、私たちの多くは70過ぎまで働き続けねばならないのです。
今、企業は社員を貴重な「資本」ととらえて、オフィス環境に投資する時代が来ているのではないでしょうか。
その第一歩として、オフィスに窓を作ることを、ぜひ経営者のみなさまには考えてみてほしい、と思います。
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写真は奈良県東吉野村のコワーキングスペース、オフィスキャンプ東吉野の館内です。
こちらのInstagram記事でも紹介しています。
窓が多く取られ、自然光がやさしい空間です。目が疲れると視線が窓に移動し、目の使い過ぎが自然に防げます。
こういった場所で仕事をするという体験を社員にしてもらうことで、「同じ仕事内容でもオフィスに窓があることで疲労感がかなり違ってくる」ということを実感してもらえたらと思います。
ワーケーションは、働く環境(空間)による生産性の違いを実感するためにも効果的です。
注意)現在、オフィスキャンプ東吉野は冬季休館中です。
<参考資料>
※1
公益財団法人 骨粗鬆症財団webサイトよりhttps://www.jpof.or.jp/osteoporosis/nutrition/calcium.html
※2
「窓の生理的・心理的効果とその魅力」板硝子協会 建築環境WG
https://www.itakyo.or.jp/upload/kouka_miryoku.pdf
興味深い資料。古代文明ではうつ病患者に自然光の差し込む部屋に住むことをアドバイスする哲学者もいたという。ところが、時代とともに先人の知恵は忘れ去られ、産業革命時代、労働者は効率一辺倒の環境で働かされて健康を害するようになり、再び自然光の健康への影響が再認識されるようになった。しかし、また、現代になって自然光が健康に及ぼす重要性が忘れられつつある(まさに日本のオフィスの状況)。
<全般>
NHK Eテレ きょうの健康
「骨の“新健康術”98%の人が不足している栄養素とは」放送概要https://www.nhk.jp/p/kyonokenko/ts/83KL2X1J32/episode/te/1MZK8KPQXW/
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