先日、見に行ってきた「価値の手直し展」のご紹介をします。
私の執筆ペースが遅いため、会期が終わってしまったのですが(笑)、展覧会レポートとしてご覧いただけますと幸いです。
会場の兵庫県立 人と自然の博物館(ひとはく)の紹介はこちら
「価値の手直し展」とは?
価値の手直し展は「アップサイクル」をテーマにした展示です。
アップサイクルとは、「捨てられるはずだったものに創造的なアイデアで『価値』を加え、新たなものを生み出すこと」(※1)。
再利用した原料をもとに製品を作るリサイクルとは異なり、新たに出来上がった製品に何らかの付加価値がついていることが特徴です。
アップサイクルによって加えられる「価値」に注目したのが、今回の展示です。
「アップサイクル」というと「新たな価値をつけることにより、前の姿よりも高価格帯の製品にする」という理解にとどまってしまいがちですが、さらにその先を考えた展示となっていました。
企画の意図は、ひとはく通信「ハーモニー」(博物館の広報物)に、とてもわかりやすく説明されています。
展示は終わってしまいましたが、こちらの内容だけでもぜひご覧ください。https://www.hitohaku.jp/publication/newspaper/harmony127-23.pdf
こちらの展示を知ったのは2月ごろ。
奈良の「実験する本屋 ヌリタシさん」店内のポスターで知り、また、店主のお二人が今回の展示に深く関わっておられたことをお聞きしました。
リサイクルに比べて、まだ浸透しているとは言えない「アップサイクル」をテーマにした展示とのことで、自分の関心のど真ん中だったので、これは絶対に見に行かなくては!と思いました。
今回はさらっとですが、展示の様子を写真とともにご紹介します。
圧倒的な量!アップサイクル事例の展示ボリュームがすごかった
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会場の手前にはこんな黒板があり、期待が高まります! |
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入り口写真 |
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展示はA〜Eの5つのエリアに分かれています |
最初のエリア「アップサイクルってなに?」ではアップサイクルの事例が紹介されていました。その数、50点ほど。
まず、その量に圧倒されました!
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アップサイクルの説明。実例が実物とともに展示されている |
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パラグライダーから作られたキャップ |
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スケボーの板から作られたボールペン |
ブログへの写真掲載を当初は予定していなかったため、(製造元を知りたく)自分が欲しいなあと思うものだけをこっそり写真に撮ってきました。
適切な表現ではないかもしれませんが、どれも再利用感というか貧乏くささのようなものがなく、とてもセンスがよかったです。
言い換えると、「環境意識からアップサイクル品を選んで購入する」ということではなく、「(アップサイクル品かどうかはもう関係なく)ふつうにかわいいしおしゃれだから、それを買う」というクオリティのものが多いと感じました。
アップサイクルについてはちょっと詳しいと自分では思っていましたが、この圧倒的な事例の前で、自分の無知を思い知らされました(こういう経験が私は大好きです)。
展示のハイライト「ボロ」
この展示のハイライトがボロとよばれている、日本製パッチワークのような布です。
ボロについてはこちらのパネルに詳しい説明があります。
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ボロについての説明パネル |
私自身はボロをみるのは初めてではなく、現物を見ても大きくこころを揺さぶられることはなかったのですが、ヌリタシさんのお話しによると、非常に衝撃を受ける方もおられるようです。
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展示されていたボロ |
ボロは当時、貧しさの象徴でしたが、現在では、布を継ぐ配置などから感じられる作り手のクリエイティビティや、希少性から価値が高まっているとのこと。
時代によってその価値が変わってきたということが、パネルにはわかりやすく説明されていました。
「価値」というものは今回の展覧会名にも含まれているように、アップサイクルを理解する重要なキーワードです。
それは個人が何に価値を見出すか、ということだけでなく、時代によっても価値は変わっていくという、ということであり、その象徴が「ボロ」ということなのだと感じました。
見るひとに問いを残してくれる展示
これは私個人の感覚ですが、アップサイクルの作り手側のメッセージには、これまでの資本主義経済がおこなってきた、大量生産・大量消費への疑問や問題提起があるのではないか、と思っています。
アップサイクルが「単なる再利用ではなく、価値を高めた再製品」であるのであれば、「価値」という視点が非常に重要になってきますが、その「価値」という考え方こそ、資本主義経済の根っこにあるものです。
これまで価値が置かれていなかったものに価値を見出し、それを商品やサービスにすることで現代社会は発展してきました。
この「価値」という考え方は経済活動だけではなく、私たちのものの見方にも大きく影響を与えており、労働や社会との交わりを通して何かしら社会へ貢献していないと「生きている価値がない」という苦しみを生み出す元にもなっています(本来、人間は生きているだけで、存在しているだけでいいはずです)。
行き過ぎた資本主義経済から距離を取ろうとして生み出された「アップサイクル」も、結局、資本主義の根幹をなしている「価値」という概念に依拠している、ということに今回の展示をとおして気づかされ、複雑な思いを感じています。
感動するとか驚きを与えてくれるというだけでなく、こういった新たな問いかけをしてくれる展示は、非常に貴重なものだと思います。
私だけでなく、見に行ったひとみんなが何かしらを持ち帰ることができた展示だったのではないでしょうか。
ぜひ、続編のような展示や発表があれば、また見に行きたい。そう思わせてくれる展示でした。
(連載終了)
展覧会の展示パネルより引用
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