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今年四月から放送大学で科目履修生になった話を、こちらの記事で書きました。
先日、認定試験を受験し、ひとまず前期が終了しました。
私が履修したのは「暮らしに活かす不動産学」という科目。
受講してみて、生活者として所帯を持って死ぬまでに向き合うであろう、不動産についてのさまざまな問題について知識が身につき、有意義な内容でした。
今回は感想を記しておきたいと思います。
「暮らしに活かす不動産学」を受講してみてよかった点3つ
その学問を広く浅く学ぶことができる
普段、自分で調べ物をしていると、ネット検索などで、ピンポイントに解決策を見つけてそれで終わりにしてしまうことが多いのではないでしょうか。
確かにその方法だと、時間のロスは少ないので、無駄なく早く正解にたどりつけます。
しかし、関連分野でも自分の興味のないことについては全く読まなかったり、場合によってはその問題について、別の観点からも考えられる要素がある、ということすら知らずに素通りする可能性があります。
放送大学では、講義は全15回もあり、最終的に試験に合格しないと単位が取れないため、関心の薄い内容についても講義を視聴することになります。
でも、そのおかげで広く浅く、その分野を網羅的に知ることができました。
私の場合、ピンポイントに疑問を解決するだけなら、第2章「住まいを借りる」と第3章「住まいの立地を選ぶ」だけを読めばよかったのかもしれません。しかし、それ以外の章に書かれていた内容まで学んだ、ということが結果として非常に良かったです。
例えば、地方に住んでいるものとして関心があった、空き家や地域のコミュニティーの問題。
講義を聞き、これらの問題には人口減少や高齢化だけではなく、さまざまな不動産をとりまく制度(税や不動産関係の法律、不動産の評価方法など)が絡んでいることを知りました。
こういった制度の背景を知ったり、基礎知識がなければ、そういったことが空き家やコミュニティの問題に関わりがある、と気づくことすらできないのです。
今回の受講で、その分野の初学者が自己流に本を集めて調べることや、ネットで手軽に検索することの落とし穴について、あらためて考えさせられました。
また、「最短で知りたい」とか「役に立つ情報だけ知りたい」という姿勢の危険性も認識しました。
中立的な知識が得られる
もう一つ大きかったのは、リバースモーゲージなど、昨今「悪」と言われている住宅関連の問題についての認識が変わったことです。
住まいというのは、物理的な住む場所であるだけでなく、資産でもあります。この講義にも、第6章「住まいの税を支払う」、第12章「住まいを相続する」、第13章「不動産に投資する」など、家計や資産形成に関わる内容が多く出てきます。
私の場合、一生賃貸だろうし、住みやすい環境での賃貸物件探しの知識がつけばよい、というくらいの気持ちでこの講義を受講しました。そのため、当初、住宅購入に関わる章はあまり積極的に聴講できませんでしたが、第11章に高齢期の住まいの話題が出てきてから自分の受講姿勢も変わってきたように思います。
銀行からリバースモーゲージを提案され、ご両親がだまされ資産を失った、というような話を最近耳にしました。
ネットでリバースモーゲージとググったり、リバースモーゲージについてのピンポイントな解説をラジオやテレビなどで聞くと、「危ないから注意しよう」「絶対やっちゃダメ」というメッセージが多いように感じました。
これは、報道が被害者の立場に立っていて、感情も含まれており情報発信に偏りが出てしまっているためなのでしょう。
この講義の第11章「高齢期を過ごす」では、「高齢期のリフォーム費用はどうすればよい?」という話から始まります。
ここでは「高齢期の住まいは老人ホームだけ?」「認知症の母が勝手に家を売却したのは有効?」と、順を追って、高齢者が直面しそうなあるあるを紹介する流れの中で、リバースモーゲージについても一つの選択肢として紹介されます。
このような文脈で解説されると、リバースモーゲージについても、いい悪いではなく、資金確保の選択肢の一つとして、客観的にとらえることができました。
忙しい私たちにとって、ネット検索での情報収集は、生活に欠かせないものとなっています。
しかし、その分野を広く浅く把握し、基礎知識を身につけてからでないと、Google検索でピンポイントに得られた情報を誤って理解してしまうこともある、ということは知っておきたいものです。
海外の事例について知ることができた
放送大学の導入科目はどれもそうなのかもしれませんが、この講義も初学者が理解しやすいよう、さまざまな工夫がされています。
その一つが、豊富な事例紹介です。海外事例も多くありました。
日本では不動産会社やデベロッパーなど、不動産の法や制度に詳しい側が、高圧的にふるまっているように感じるのは、私だけでしょうか。
制度に詳しい側がこういった立ち位置になることは、不動産業界に限らないのかもしれません。
ですが、「住むところ」というのは生きている限りずっと関わってくる問題なので、嗜好品ではありません。ここにストレス源があると生きる質に響いてしまいます。
私は「単身アパートの賃貸住まい」という、住まいのランクではどちらかというと下の方に所属していて弱い立場です。そのため、不動産関係者から「こうだから」と迫られると、そのほかに全く選択肢がないように感じてしまいます。
しかし、この講義を約半年受けて、日本の不動産業界の「当たり前」が、英米ではそうではないケースがあることを多々知りました。
この講義を受けるまで「不動産学」という学問があることすら、私は知りませんでした。
不動産学って何?なぜ不動産学が必要なの?という話は、第1章で解説されています。「暮らしに活かす不動産学」については第1章の講義のみ、放送大学の学生でなくても視聴できるように公開されています。
不動産学はアメリカやヨーロッパで盛んで、日本は遅れを取っている印象です。日本で不動産学を学べる大学は、明海大学一校のみです。
今回、一連の講義を受講して、日本の不動産業者の営業マンに、大学で不動産学を専攻しているひとが増えれば、世の中は変わってくるのではないかと感じました。
宅建などの不動産関係の資格で学ぶ内容と、この講義で学んだ「不動産学」にはもちろん重なる部分はあるのかもしれませんが、根本的に違うものなのではないか、という印象を受けたからです。
特に、アメリカやヨーロッパの状況と日本での現状に特に大きな差を感じたのは、今もそしてこれからも日本で大きな問題となるであろう、空き家の問題です。
去年、京都市内で再建築不可の中古住宅を共同オフィスに作り変えようとされている方の、床張りを手伝いました。
全国床張り協会主催のWS(ワークショップ)です。
https://yukahatter.jp/
その場で主催者の方々から聞いたのは「家を一軒壊すと、ものすごい量のごみが出る。家庭で分別して、これはリサイクルして…という日々の工夫などかき消されてしまうくらい、破壊力のある量のごみが出る」という話です。
私も実際に、家屋の修繕をしながらそのことを実感しました。ecoの観点からエコカーに買い替えるのではなく、車を手放すことが大事、というのと似ているかもしれません。小さなリサイクルの工夫よりも、中古住宅を活用し壊す家を1軒でも減らすことがゴミ問題にはインパクトがあるのです。
人口減少に伴う空き家の増加は、アメリカやヨーロッパ諸国よりも日本が急速に進むと思いますが、日本人が海外の事例を知らず、日本の事例や日本の法や制度の範囲でしか解決策を探れずにいたら、相当な遅れをとってしまうように思いました。
空き家問題への取り組みをされている方は、自治体などにも多くおられると思います。
問題解決の手法を学ぶために、建築学やワークショップ運営、コミュニティ運営などに答えを求めがちかと思いますが、不動産学にもそのヒントがある、ということをお伝えしたいです。
放送大学での学びは、ぜひ現役世代の方にも
放送大学の講義は15回も放送があり、しかもテストのようなものが通信指導と単位認定試験の2回もあり、勉強から離れてしまった社会人にはちょっと大変かもしれません。
また、今はyoutubeなどで無料の教材も多くありますので、科目履修は割高だと感じる方もいらっしゃるでしょう。
ですが、内容の中立性や分かりやすさ、網羅性などを考えると非常に効率がいいように感じました。
ぜひ、退職後の生涯学習に受けるのではなく、現役世代が自分の暮らしに必要になった知識をその都度身につけるために活用してもらえたら、と思います。
↓現在、放送大学では後期入学のインターネット出願受付中です。
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